「これはビックリした」
「これはなに?」
「1953年のモノクロ映画。おそらく山本五十六ものとしては最初の映画」
「どこに驚いたの?」
「あり得ない描写は多いが、生々しさにおいてはおそらく最強。ともかく、終戦から10年経ってないのだ」
「ちゃちな特撮でも、煮え切らない描写があっても、本物の生々しさがあるってことだね」
「そうそう。山本五十六の指揮下で隼が離陸しても、ミッドウェー島にイギリス機がいても、第2次攻撃の要有りと打電するのが九六陸攻でも泣いちゃダメだ。なんか他の映画のフィルムを転用したらしい」
「でも生々しいんだね?」
「そうそう。ともかく、戦時中の映画のフィルムを使ったり、本物の戦争の記録フィルムを使ったり、時代の空気がそもそも実際の年代に近いから、空気感がもの凄く違う。本当の従軍経験者がゴロゴロいた時代だから、いちいち言葉遣いも切れ味が違う」
「見どころはどこ?」
「三国同盟が必須であると説得する連中の切れ味が違う。単なる悪役ではない。それから、下駄履きの九三中練が編隊離水するのが泣けるね」
「九三中練ってなに?」
「赤とんぼだよ。モノクロ映画なのに赤く見える!」
反戦という問題 §
「結局、これも反戦映画なんだよね」
「戦いの快感の映画では無いわけだね」
「負けると分かっていて、負けに向かって進んでいき、最終的に山本五十六は死ぬのだよ。戦争っていやだねえ。やりたがる連中は阿呆だね」
「またそこに戻るのだ」
「時間を戻すと自動的にそこに戻るのだ。それだけ敗戦は鮮烈な出来事だったのだ」
「それが理解できな人達にはどうすればいいと思う?」
「もう1回敗戦を経験すれば嫌でも分かると思うよ。生き延びられたらの話だけど」
「ひ~」