「いや突然気づいたけど」
「なんだ?」
「ゼルグート級、【正面装甲はヤマトのショックカノンを弾く】と説明されているのだが、実はこれって違和感をもたらすものだったのだ」
「どうして? 実際に弾いたじゃないか」
「弾く弾かない問題ではない。実は正面装甲というのは戦車でよく使われる用語。戦艦の場合、装甲は重要区画に対して行われ、バイタルパートと呼ばれる。バイタルパートは特に正面に対して強化するわけではなく、バイタルパート以外の正面もそれほど強化しない。バイタルパートより手前はバイタルパートの外側なので、そこは壊れやすい」
「それってどういうことだい?」
「うん。だからさ。出渕総監督は基本的に戦車マニアなのだろうってことだ。艦船マニアの発想ではない要素がけっこうチラチラ見え隠れする」
「結局なんだ?」
「結局、ドメラーズの正面装甲を撃ち抜けないヤマトと、ティーガーの正面装甲を撃ち抜けないシャーマンのFURY号は同じだってことだ」
「なんてこった。でもさ。そのティーガーの正面装甲は破られたよ。火炎直撃砲で」
「パーシングだ。大西洋の向こう側のアンドロメダ銀河からはるばる持ってきた重戦車が撃ち抜いたんだよ」
そこで目から鱗が落ちた §
「そこで目から鱗が落ちた」
「なんだよ」
「ヤマト2199の宇宙艦船はフネのように見えてフネではない。多砲塔戦車なのだよ」
「その心は?」
「昔銀河英雄伝説というのがあったけれど、宇宙戦艦魂がピクリとも反応しない作品であった。それもそのはず。あれの戦いは海戦ではなく陸戦がモチーフなんだよ」
「加藤直之デザインの素晴らしい宇宙戦艦群は?」
「1回たりとも模型が欲しいと思ったことはない。ふーん、あそう。で流しておしまい」
「それでヤマト2199は宇宙艦船は多砲塔戦車とは?」
「戦艦の歴史というのは、ドレッドノートが登場した時に艦首から艦尾の軸線上に全ての主砲を配置するという特徴を持った。だから、軸線上に主砲が載っていない戦艦はやぼったい」
「戦艦ヤマトの左右の副砲は軸線上に無いよ」
「副砲、対空砲、流用砲は別に軸線上に無くても良い」
「分かった。ヤマト2199には主砲が軸線上に無いデザインがいくらでもあるってことだね?」
「そう。そこは凄く野暮ったい」
「それで?」
「でもね。多砲塔戦車と思えば話は変わってくる。主砲が中心線上に無くても普通のことなのね」
「なんてこった」
「そして、多砲塔戦車も洗練の波にさらされるが、多砲塔という特徴は好まれない。砲塔は1つに収斂していく」
「じゃあ2199的デザインはどうなんだよ」
「宇宙戦艦は実在しないから、何をどうデザインして、それを見てどういう感想を持とうが自由だ。誰にも制約されることはない。ただし、それがどこまで一般性を持てるのかは別の問題だ」
「それはどういうこと?」
「一般人が戦艦だと思う記号と、宇宙だと思う記号を付けて宇宙戦艦は成立する。戦車の記号を付けて宇宙戦艦が成立するのかは受け取る人による」
「作り手は何をどうしても良いが、それが受け手に届くかは別問題なのだね」
「そうだ。誰も何も制約しない。ただの球を宇宙戦艦だと言ってもいいんだよ。でも、それが宇宙戦艦だと分かってもらえるかは別の問題」
「ただの球って、そんな宇宙戦艦あるのかよ」
「ペリーローダン」
「デススターじゃないのかよ」
オマケ §
「さて。ここで重大な突っ込み」
「なんだよ」
「近代的な戦艦の基礎になったド級のドレッドノート。実は全ての主砲が中心線上に無い」
「野暮ったいじゃん」
「実はそうなんだ」
「どこが画期的なんだよ」
「いや、いろいろ画期的だったんだよ」