「なぜこれを見たの?」
「いや、『兵隊やくざ 大脱走』を見たら面白かったので、シリーズを一通り見ようかと思って」
「それで面白かった?」
「凄く面白かった」
「どこが面白い?」
「敵軍が出てこない」
「は?」
「敵は砲兵。炊事。あるいは軍隊そのもの」
「ひ~」
「ヒロインは女郎。ヘソ酒とか説明してくれるし。1人じゃ退屈だと言って2人一緒に相手をすることを示唆したり」
「なんだそりゃ」
「つまりだな。軍隊組織の理不尽さを描いているわけで、敵は内部にいる。戦う前にまず内部抗争に勝たねばならん」
「軍隊ってそういうものなの?」
「そうそう。ビンタ当たり前。内部で恐ろしく消耗する世界だよ」
「ダメじゃん」
「だから【軍隊映画】というならば、こっちの方が正解。敵が出てきて戦うだけなら子供の妄想」
「敵は内部にいるってことだね」
「でもね。最近は、どんどんシンプルに【相手は悪であり敵である】という世界が増えつつあって、軍隊の矛盾だけで成立する映画なんておそらく無い。こういう映画は、終戦後20年という時期だから成立する」
「軍隊経験者が普通にいた時代だってことだね」
「今はもう作れないよ、こんな映画」
「今後も絶対に無理?」
「そんなことはない。もう1回日本が戦争に負けてな。日本という国が残っていたら作れるかもしれない」