2016年02月09日
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21世紀ヤマトで古代進が主人公になれない理由

Written By: トーノZERO連絡先

「昔話をしよう」

「なんだい?」

「自分の小説処女作が何にあたるのかは微妙なのだが、その候補の1つになる【月の光の王女様】という短編があってな」

「それがどうした」

「身勝手な王女様が、自分の身勝手さに気づいて成長するという話なのだが。是非とも成長して大人になって欲しいオタクから、成長というテーマそのものが否定されて愕然としたことがある」

「ヤマトと関係ない話題だ」

「いやいや。話がつながるから」

「本当か?」

「本当本当。海峡は本当にあるんだ」

「じゃあ何だよ」

「成長というのは、精神の挫折とワンセットなんだ。あるいは世代交代とワンセットと言っても良い。あるいは、【大人】と【子ども】が存在する世界観とワンセットだと言っても良い」

「それで?」

「うん。だからさ。ポストモダンの世界観において、権威は消失してフラットな世界が現出するわけだ。どこかで有名な作家の先生と、小説を書いたこともない僕は同格なんだ」

「意味がぜんぜん分からない」

「つまり、現代は精神の成長という概念が存在しない世界であり、その有り様を最もストレートに体現していたのがオタクということだ。しかし、成長という概念を持たないのはオタクだけではなく、世界的な一般論としてその要素が希薄化しつつある」

「なぜだろう?」

「ネットの時代になって、間抜けな年寄りに触れる機会が増え、しかも無尽蔵の情報にアクセスできるから、年の差に意味は無いように思えてくる。本当はただの錯覚だけど、そのように思ってしまう人がどんどん増えている」

「それで?」

「しかし、肉体の毀損は依然として無制限で許容されている。どれほど怪我をしても良い」

「心の挫折はダメだが、肉体の毀損は許容されるわけだね」

「そうだ。そこにポイントがある」

「結局それがどうしたのさ」

「だからさ。そこを起点に考えるとヤマト2199の解釈がすんなりと腑に落ちるのだよ」

「どうして?」

「ヤマト1974のストーリーの軸は、沖田から古代への世代交代だ。当初、自己主張が少なく、しても家族の仇。そんな古代が宇宙の愛に目覚めていくわけだ。それに反比例して、沖田は病気が進行して最後は死んでいく」

「そうだね」

「だが、ここで【成長はNG】【世代交代はNG】【大人と子どもの差は無い】【永遠に同じ時間を繰り返す】という前提を挿入してストーリーに修正を加えるとしよう」

「沖田から古代へ世代交代できないじゃないか」

「そうだ」

「しかも、沖田は死ねないぞ」

「その通りだ」

「でも、ヤマト2199でも沖田は死んでいるよ」

「死んでコスモリバースに入ったから、ヤマトそのものになったんだよ」

「そうか! 肉体の損壊は無制限で許容されているのか。つまり、意識が残る限り死んでも構わないのか!」

「そうだ。他にも、【老人が子どもの考えた可愛いお爺ちゃん】とか、【佐渡に人生の先輩としての重みがない】とか、極端な例としては【ガミラスを滅ぼして挫折感を味合わない】とか、様々なサブストーリーが完結しないでちゅうぶらりんとか、すべてこれで解釈できる」

「詳しく説明しろよ」

「【老人が子どもの考えた可愛いお爺ちゃん】というのは、明らかに老人らしくない行動や表情や発言を行う徳川とかね。沖田も時々そういう顔をする。しかし、世代差に意味が無い世界観だとそうなる。老人らしい老人を描くと、世代差が露呈してしまうのだよ」

「【佐渡に人生の先輩としての重みがない】って?」

「ヤマト2199の佐渡は、単に酒を飲んでいるだけの医者だ。ヤマト1974にあった、人生の先輩として古代にアドバイスするような側面は無い。だが、人生の先輩という概念が存在しない以上は、アドバイスなどあり得ない」

「【ガミラスを滅ぼして挫折感を味合わない】は?」

「まさに、勝って挫折を味わうところが、今どきの時代に適合しない。いくら大きな破壊があってもいいが、心を挫折させてはならんのだ」

「デスラーが【約束】にこだわるのもおなじだね」

「そうだ。約束を果たそうとし続けている間は、デスラーは敗北感を味わう必要が無い。たとえガミラスを追われてもね」

「様々なサブストーリーが完結しないって?」

「いろいろあるよ。たとえば地球側が先制攻撃した理由は描かれていないだろ?」

「そうだね」

「山本が古代に持つ恋心がどう決着したのかも描かれていない」

「そうだね」

「ユリーシャがガミラスに行く理由も良く分からないし、そもそもなぜユリーシャが起きたのかも分からない。それ以前に、なぜ岬百合亜に入ったのかも良く分からない」

「君は、【あえて描かないことも大切】ではなかったのかい?」

「それはそうだ。あえて描かない方が良いことはいくらでもある。見る人が想像した方が世界が広がるからだ。でも、物語が完結していないという問題は全く別。始まった物語は終わらなければならない」

「結局、このことで何が説明できるんだい?」

「少なくともこの2つの価値観の分水嶺は日本のオタクの場合、1980年代にあると思う」

「それで?」

「だから、本来宇宙戦艦ヤマトという作品は、この分水嶺の手前に存在していた。手加減無く、精神の挫折を描くが、それは当時のアニメやドラマでは普通だったこと。なんら特別ではない。しかし、今は分水嶺の後だから、非常に多くの要素を除去しなければヤマトのリメイクは成立しないことになる」

「そうか。だからヤマト2199はヤマトらしくないのか」

「より正確に言おう、ヤマト2199は新規顧客層を開拓しようとして、新しい価値観を全面的に取り入れて製作されたが、いざ蓋を開けてみるとファン層の大多数は古い価値観にかつて浸った高年齢層だった。その結果として、非常に作品内容とファン層の嗜好にミスマッチが生じて、不満が消えない」

「【素晴らしい。最高だ】と言ってはばからない人と、【つまんない。出来が悪い】と言ってはばからない人がいる理由だね」

「相互に相容れないぐらい隔絶した価値観が混濁している混沌世界がヤマト2199だよ。この混乱世界をこね回して、いったいどんな世界を生み出せるのか。そこは注目点だ」

「今のままだと、評価とそれ以上の怨みを産み出しただけだね」

「そのまま終わってしまうのか。それとも何か別の展開があるのか。全ては、未来時制の出来事であり、自分には語りようがない」

オマケ §

「ヤマト2199は、世代交代が封じられたため、古代進を主役にすることができなかった。あれは、古代と島の性格を交換したのではない。古代も島も主役にはなれないのだ。沖田がそこにいる限り。そして、沖田の意志は死なない」

「じゃあ、方舟は?」

「方舟は、古代を強引に主人公に据えた代償として、今度は沖田がはじき飛ばされている。本来なら、ピンチに陥った古代が相談のために艦長室に行っても良いところだが、そういう展開はない。死ぬ思いで地球で待っている土方がいるのに、【ラジオにリクエストしちゃおうかな~】などと脳天気なことを言っている子供じみた老人モドキがいて、古代と家族ごっこしているだけだ」

「つまり、沖田を主人公だと認識していた昔を知らない新規の2199ファンは、ここで肩すかしを食らうわけだね?」

「しかし、【古代人気】は依然として無視できないから彼を活躍させない訳には行かないが、世代交代は封じられているから沖田をまともに沖田らしく描くことはできない。最初から絶対に上手く行かない無理な計算だったのだよ」

「君はどうすれば良かったと思う?」

「沖田でも古代でもない、第3の人物の視点で物語が進んでいれば良かったと思うよ。遠景で沖田から古代に世代交代が進んでいても、それは遠い世界の出来事で主人公に関係なければ重大な問題ではない」

オマケ2 §

「フラットな世界観でも上手くストーリーを組み立てる方法はある。それは技術の問題。ただし難易度はグッと上がる」

「証拠は。俺達は証拠が欲しいんだ」

「追憶の航海は、単なる再編集なのに上手くストーリーがまとまっている。まとめた人の腕が良いのだと思うよ」

「それってヤマト2199はストーリー構成が下手ってことかい?」

「こらこら」

「はっきり言えよ」

「つまりだね。フラットな世界の物語はもっと難しいが、更にフラットではないヤマトの物語をすりあわせると更に難しくなる。ヤマト2199に課せられた難題はとてつもなくハードだ。だが、そのハードさに見合う中身はなかった。そういうことだろう」

「平均レベルで問題無いとしても、平均レベルの難題ではなかった、ということだね」

「続編の難易度はもっと上がる。出発ラインがマイナスだからだ」

「でもさ。ヤマト2199で満足している人もいるじゃないか。なんで?」

「ストーリーの問題は全体の構成の問題だ。個別のシーンを見ているだけの人は、別に気にならないよ。その場その場が良ければそれで納得するから」

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