「なぜこれを見たの?」
「TOHOシネマズ会員割引きの日だったから。何か見ておこうと思った」
「見る映画はどれでも良かったの?」
「どれでも……とまでは行かないが、候補はいくつかあった」
「なぜひるね姫を選んだの?」
「時代の流行り物らしいので」
「面白そうだから、ではないの?」
「いや別に。流行り物は見ておこうという防衛的な理由で見た」
「実際に見てどうだった?」
「一言で言えば、【ロボットアニメだと知っていたら見なかったかも知れない】だな。けっこう損をした気分だ」
「ロボットアニメはあまりにも長く続きすぎて、飽き飽きしてもう見たくないわけだね」
「そうだな。鉄腕アトムか鉄人28号以来だ。もちろん何か意味があってそれを描くことまでは否定しないが物語的に意味が無い惰性なら見たくない」
「ではロボットの話は除外しよう。映画そのものとしてはどうだった?」
「今どきのアニメが抱える典型的な欠陥が全部揃っている感じだ」
「【老人が老人らしくない】とか、【キャラが記号的で生きている感じがしない】とか、そういう問題?」
「そうだな。まあ、今どきのスタッフが普通にアニメを作ると自動的にそれらの欠陥が付いてくるのがアニメだろうから驚かないけど」
「ってことは、この映画の問題というより、アニメ全体の問題?」
「アニメ全体を語れるほど多くを見てはいないよ」
「じゃあさ。もっとこの映画特有の問題を語ってよ」
「この映画の基本コンセプトは間違ってない。自動車メーカーを使ってペリーヌ物語を作っているようなものだ。自動運転の問題を絡めたことも間違っていない。でも、それをフィルムの形にしていく課程でずいぶんと変なところに迷走してしまった感じだ。基本的には、【上手く作れなかったペリーヌ物語】と捕らえればいいんじゃないか?」
「出す必然性のないロボットを出して迷走したペリーヌ物語?」
「ロボットは迷走の一要因に過ぎないけどね」
「じゃあ、君はどうすれば良かったと思う?」
「自動運転の問題だけで物語は成立する。ロボットは要らない。魔法も要らない。だがロボットや魔法を描いたことで、肝心の自動運転の問題をほとんど描けていない。要するに自動運転が工学ではなく魔法になってしまっているんだ」
「高度な技術は魔法と見分けが付かないのではないの?」
「技術立国日本を標榜しながら、技術を魔法扱いする国民ばかりの現状が問題になっているときに、技術は魔法と描いてしまうのはどうかと思うよ」
「工学なめるな。製造業なめるな。ってことだね」
「特にソフトウェアをなめるな」
「たっぷり舐められて不快だったって顔だね」
「いや、むしろ眠かった。序盤で最初にロボットが出てきた時、本当に最後まで耐えられるか。起きていられるか。考えてしまったほどだよ」
「寝ないで済んだ?」
「最後まで耐えたよ。まあ、夢の世界のお姫様が自分では無く母親だと気づく辺りだけは面白かった。でも、その後の展開がグダグダで萎えたけどな」
客の入り §
「で、実際にスクリーン内の様子はどうだった?」
「劇場での上映回数は少なくなかったので最初は気づかなかったが、公開4日目にしては小さいスクリーンで上映していた。それでも満席にはなっていなかった。雨降りの平日というハンデを差し引いても、イマイチな感じはした」
「終わった後の観客の様子はどうだった?」
「みんな、イマイチ気持ちが上がってない雰囲気だったな」
「2016年からのアニメ映画ブームもこのあたりで一区切りな感じ?」
「より正確に言えば、似たような【敵】が出てくるモアナに食われてしまった感じはある。二つの世界を往復して話が複雑で分かりにくいひるね姫と比較して、モアナの方がもっとストレートで分かりやすい」
「ああ。自動車メーカー社員にも二派あったり警察にも二派あったり話が分かりにくくなってるのは確かだね」
「そうだな。凝りすぎた物語をたった2時間前後で理解しろというのはかなりの難題」