「また古い話を行こう」
「またかよ」
本文 §
「水路跡探索家の視点で見ると」
「見ると?」
「水路が残っていない場合でも様々なヒントから経路を推定できる」
「たとえば?」
「水は自力では坂を上がれない」
「確かに」
「サイフォンの原理等で一時的に低い部分を通す方法はあるのだが、基本的には高いところから低いところに流れるのが基本。だから天然河川は土地の高低を見るだけで、だいたい経路は推定できる」
「天然河川ってことは人工水路は?」
「人工水路は標高の高いところをできるだけ流そうとする」
「なんで?」
「自然流下で水を周辺地域に流したいからだ」
「なるほど。高ければ低い場所に流せるのだね」
「そうだ。そして水には絶対に出口が必要だ」
「なんで?」
「水が入ってくる一方で出ていないとしたら水びたしだ」
「なるほど」
「そういう観点で完結編を見ると、最大の問題は水の出口が無いってことだ」
「アクエリアスの水が地球に来たら、戻れないってことだね」
「そうだ。最大限譲歩してアクエリアスの水が地球に来るとしても、その水はもうどこにも行けない。地球を水没させたまま、水が引くことはない。出口が無いんだ」
「普通の河川だとどうなるわけ?」
「最終的に海に流れる」
「海から蒸発して雨が降って川で海に戻るサイクルがあるわけだね」
「アクエリアスの水は外の世界から来るからサイクルの外になる。つまり、サイクルの水の総量が増えるだけなんだ」
「つまり、増えた水は永遠に海か水蒸気か雨か川の形で存在し続ける訳だね」
「そうだ。だから、地球の文明を水没させたら。水が引いた後でディンギル人が移住することはできない。水は引かないんだから」
「えー」