「また古い話を行こう」
「またかよ」
比較論 §
「完結編は、本質的に古代とルガール・ド・ザールの生き方を対比する構造でスタートする。偶然の遭遇で両者は戦闘に入る。ところが、その構造は最後まで一貫しない。何と途中でルガール・ド・ザールが死んでしまうんだ。結局、沖田とルガールの生き方の対比という構造に取って代わられてしまう。その結果、最初に提示されたモチーフは回収されずに映画が終わってしまうのだ。ヤマトが沈んで終わることで、物語が終わったように見えるのだが、実は終わっていないのだ。ヤマトが軸だと仮定すると、実はヤマトに対比可能な敵艦が存在しない」
「そのねじれが完結編の最大の問題ってことだね」
「そうだ。全ての矛盾に目をつぶっても、映画のストーリーとしての誠実さを欠く。そこに、深い深い後悔が残る。そういう映画だ」
「じゃあどうしたらいいわけ?」
「ストーリーを組み直そうと思う者は選ぶしか無い。古代で一貫されるか沖田で一貫されるかヤマトで一貫させるか」
「そうか」
「そして、もし沖田で一貫させようと思うなら、序盤の展開は全部組み直しだ。古代で一貫させるなら中盤終盤の展開は全部組み直しだ。一筋縄では行かない」
「ヤマトで一貫させるなら?」
「ヤマトに対比可能な宇宙艦を出して、それを最後までヤマトと対立しなければならない」
「ヤマトに対比可能な宇宙艦ってたとえば?」
「2199ならドメラーズとか。デウスーラとか。新たちならゴルバとか。プレアデスとか」
「完結編にはそれが足りないんだね」
「そうだ。実は水雷艇や水雷艇母艦ではヤマトより格が落ちる。プレノアもだ。しかし、ウルクは大きすぎてヤマトが乗ってしまう。同格とは言いがたい」
「難しいね」
「難しいのだ」
別の比較? §
「ああ、やっと目から鱗が落ちた」
「なにが?」
「古代とルガール・ド・ザールが対応するキャラだという考えは、誰でもそう思うし、そういう風に作られている節がある。YAMATO SOUND ALAMACの解説でも、確かに古代とルガール・ド・ザールが対応するキャラだという解釈で書かれた文章を見たような記憶がある」
「それが違うというのかい?」
「そうだ。違う」
「じゃあ、誰が誰に対応するのだい?」
「古代はルガール大神官に対応し、ルガール・ド・ザールは島に相当するのだ」
「なんでだよ」
「そして、沖田はクイーン・オブ・アクエリアスに対応する。ディンギルの少年は島次郎に対応する。森雪はルガール大神官の奥さん、ルガール・ド・ザールとディンギルの少年の母親に対応する」
「理由は?」
- 最後まで粘るが最後の最後で退場してしまう→古代&ルガール
- 中盤のいいところでいきなり死んでしまう→島&ルガール・ド・ザール
- 重要度が低い→ディンギルの少年&島次郎
- 生きているのか死んでいるのか分からず、ラストの対決を実現するが相打ちで果てる→沖田とクイーン・オブ・アクエリアス
- 映画の開始時点で一緒に連れて行ってもらえない→森雪&ルガール奥さん
「なんだそりゃ」
「だからさ。ルガールの奥さんと子供が出てきてルガールのセックスが意識される場面に始まり、最後は古代と雪のセックスで締める、本来はそういう構造だったのだよ」
「えー」
「だからさ。完結編のミステークはどこにあるのかと言えば、目先の整合性に捕らわれて全体の構造の整合性を欠いてしまったことにあるのではないか……と思うわけだ」
「ホントかよ」
「それは分からない。このストーリーを考えた人の頭の中は覗けないし、話を聞いても本当のことを言うとは限らない。あるいは複数の人の意見を合成して自然に出来上がってしまった構造かも知れない。その場合は、ストーリーを考えた唯一の人はいない」
「では、どこに問題があると思うんだい?」
「そうだな。仮にこの構造を是とするとだな」
- ディンギルの少年の出番が島次郎の比して多すぎる。対称的とは言えない (名前も与えてもらえないキャラなのに)
- ディンギルの少年の出番を肯定するなら島次郎の出番を増やすべきだ。そして、ディンギルの少年が地球人の生き様を見たようにディンギルの生き様を見てくるべきだ
- 奥さんはあっさり殺すべきではなかった。途中でルガールと合流して、ロボットホースの背中に乗って負傷したルガールを支援するぐらいのことはすべきだった (二人のコスモゼロに対応する)
- 生きているのか死んでいるのか分からないクイーン・オブ・アクエリアスに対比されるのが沖田なら、沖田は幽霊なのか生存したのか分からないキャラで良かった。脳死などという苦しい理由付けをする必要は無かった。佐渡も謝る必要は無かった
- ルガール・ド・ザールが死ぬタイミングと島が死ぬタイミングはもっと接近させ、両者の死を対比させるべきだった
「それからもう1つ」
「何だよ」
「この話、水が引くことをが前提になっているように見えるのだがよく見ると違う」
「えっ?」
「もし、水が引くのならディンギル星を見捨てる意味が無い。水が引くのを待って戻れば良いだけのことだ」
「ってことは?」
「だからね。科学的に間違っていても水が引くとして見たとしても、この話は矛盾している。最初から矛盾している。だから、本当のストーリーは違うのではないかと思うわけだ」
「は?」
「そもそも、洪水で人類を滅ぼした後の地球に、男だけで降りたって子孫が残せると思うか?」
「ああ」
「そもそも普通は女子供を切り捨てない。子供は未来の希望であり、女は子供を産めるからだ。絶対に大切にされる。にもかかわらずディンギルは切り捨てた。なぜだ」
「狂信的な宗教?」
「だとしても目的はあるはずだ」
「なんだろう」
「実はルガールの真の目的は未来の破壊ではないか。事実として古代は辞表を書かされ、、未来を破壊された。そして過去からの亡霊である沖田に呪縛された」
「呪縛か」
「とすれば、対応関係を取るとルガールもクイーン・オブ・アクエリアスに呪縛されていることになる」
「結局クイーン・オブ・アクエリアスも敵かい」
「敵どうか分からないが、沖田と同じ世界に属する者だろう」