「凄いことを見せてやろう」
「なんだい?」
「小説家遠野秋彦にこの場で変身する」
「君が遠野秋彦ってことはみんな知ってるよ」
「あれ?」
「話はなんだい?」
「実は世の中の流れが変わったと思うことが1つある」
「それはなんだい?」
「今、少し遠野秋彦らの小説を電子書籍として自ら売っている。採算ラインに達しているとは言いがたいのだがね」
「それで?」
「ダイレクトにマーケティング情報に触れられるので、売り方を工夫できる余地が広がったということもあるのだが、それはそれとして昔売れなかったものでも売れ行きが上昇傾向にあるんだな」
「それはどういうことだい?」
「詳細なデータは取れていないのだが、どうもフリーの客が買っている事例が多いような気がする」
「フリーの客?」
「ある意味で、流れが変わった。みんなが読んでいないものを積極的に読もうとする読者が以前より増えているような気がする」
「全ての小説が読まれているのかい?」
「そんなことはない。売れ行きには偏りがある。しかし、趣味嗜好の偏りであって、名前を知っている人気作家か否かは取りあえず問題にしない読者層の厚みが増えている気がする」
「もっと増えれば黒字になれるわけだね」
「まあな。その日を待っているよ」
「で、その話がポストオタク、ネクスト論と何の関係があるんだい?」
「そうだな。主人公は挫折しないとか、そんなものくそ食らえと思って書いたものが読まれる以上、世の中の流れは変わったと思うよ」
「なぜ主人公は挫折すべきなの?」
「奇跡の回復の爽快感を味わうためには、その前に主人公はどん底に落ちるべきだろう? 落差の大きさこそが見せ場だ」
「主人公は挫折しちゃいかん、と言ってしまうとその爽快感は永遠に得られないわけだね」