「劇場版ガッチャマンはさらば宇宙戦艦ヤマトのライバルとして企画された映画だろうな……と思う。そこを踏まえることは非常に重要」
「ふむふむ。どのあたりがライバル?」
- ヤマトサウンドに対抗して超立体音響フェニックスサウンド 4ch
- 宮川泰に対抗してすぎやまこういち起用
- 舛田利雄に対抗して岡本喜八起用
- 約半月前に上映開始
- ささきいさお人気に対抗してささきいさお人気
「それで? 実際にライバルたり得た?」
「残念ながら完全新作でスターウォーズと戦っているさらば宇宙戦艦ヤマトのいる地平には再編集映画では到達できなかった感がある」
「ふむふむ。では劇場版ガッチャマンは失敗作なのかな?」
「実は、このライバル関係を除外して作品単体で見る限り、かなり良く出来ている。きちんと1本の映画になっているし、音響面での楽しみは確かにある。クライマックスですぎやまこういちアレンジのガッチャマンのテーマが流れるとやはり盛り上がる」
「そこだけ?」
「いや。きちんとガッチャマン大鷲の健が人間に見えるような構成になっていて、人間性が少し欠落してしまったヤマト1977の再編集とは一線を画している」
「たとえば、どのあたり?」
「スナックジュンでジンペイ相手に飲食代をツケにさせたり踏み倒そうとするあたり。それに加えて、レッドインパルスを相手にした時の格下感や父だと知った時の驚き、それから泣きならジョーを置いて先に行くと命令するリーダーとしての健」
「じゃあ、この映画は健の映画なの?」
「そうだ。表面的には後半ジョーが主体に描かれてしまうが実際はレッドインパルスやジョーの犠牲で健が何とか地球を救う話になっている。健だけの力で救ったわけではないが、健こそがリーダーとして状況を主導した。でも自分だけの力では問題を解決できなかった。そういう人間的な不完全さをたっぷり見せつけられる映画であった。凄く見応えがある」
「かなり良かったわけだね」
「非常に感心した。こういう構成は、オリジナルのスタッフの尽力によるものか、それとも岡本喜八監督のアドバイスによるものか、そのあたりは気になるところではあるがね。あるいは、岡本喜八の名前を出すならこれぐらいはやらないとバチが当たるとスタッフが奮起した結果かもしれない」
「岡本喜八の名前は大きい?」
「かなり大きいと思うぞ。ちなみに、1978年頃の岡本喜八監督作品といえば、【ダイナマイトどんどん】にあたる。S氏の70年代カセットテープにも【ダイナマイトどんどん】の宣伝が少し入っていた」
「実体を見せずに忍び寄るダイナマイトどんっ! どんっ!」
「実体を見せてないけど、爆発で忍び寄ることがばれてますがな」
オマケ §
「【ダイナマイトどんどん】好きだね」
「田中邦衛のヨッパライピッチャーの怪演が凄く好き」
オマケ2 §
「で、さらば宇宙戦艦ヤマトに見劣りした劇場版ガッチャマンにも大幅に見劣りするヤマト22○2のことを思って君は泣いたんだね?」
「いや。劇場版ガッチャマンにも演出的に古くてダメな部分はあるし、ヤマト22○2にも進歩している部分はあるよ。ちょっと行きすぎたお涙頂戴の浪花節とか、あまりにあっさり死期が来すぎるジョーの病状とか、ガッチャマンの問題点を指摘する気になればいくらでも」
「それらの弱点込みで考えても大幅に見劣りするヤマト22○2のことを思って君は泣いたんだね? この数十年のアニメの進歩とは何であったのかと」
「そこまでは言ってないって。ってか、ヤマト1977では勝てない部分があることの方が問題は大きいだろう。おそらく、劇場版ガッチャマンとは、【敵がヤマト1977ならこれで勝てる】という勝算の企画なのだろう」
「実際にはヤマト1977ではなくさらば宇宙戦艦ヤマトが来ちゃって勝てなかったわけだね」
「そういう意味ではSBヤマトはある意味でリベンジになっている。映画サイズで人間らしい人間を描いてヤマトをやれた。ヤマト1977とSBヤマトの最大の差は、人間味の厚みだよ」
「そのことはなぜいつも問題にされないの?」
「人間味とはオタクが最も不得意とする分野だからだよ。本人は人間としてこれ以上ないぐらい人間的に振る舞っているのに、人間らしい振る舞いは描けないし受容もできない人が多い。しかもそのことにはとても無自覚的だ」