「オタク文化は宇宙戦艦ヤマトから始まったというのは割と通説で、当時の人も割とそういう受け止め方をしていたと思う。しかし、実際に70年代を見ているとかなり異質な人種が当時の文化の担い手だったということが分かってきた。1983年前後が1つの境界線で、本当のオタクの時代はこのあたりから始まったものではないか」
「プレオタク時代はどう名づければいいの?」
「実は、いくつかのムーブメントが渾然一体となっていて、一貫したものはないのだが、アニメブーム、SF映画ブーム、ロリコンブーム、オーケストラ音楽ブームなどがあった、。こういうものを全てひっくるめてアニメブームの時代と呼ぼうか。もちろん、アニメではないものも包含されるが便宜上」
「アニメブームの時代とオタクの時代は別の時代なのだね」
「そう。だから、両者の連続性はそれほど大きいものではない」
「連続性はないのに、なぜ連続性があるかのように扱われるの?」
「その方が有利だからだ。我々は社会ブームを起こした面々であるから社会は我々を承認すべきである……という論旨に持ち込みやすい」
「それって、別の誰かの成果を自分の成果のように誇っているということ?」
「そうだね。けっこうそういう面がある」
「それって大きな声では言えないが、泥棒行為ではないの?」
「小さな声で言ってもやはり泥棒行為だと思うよ」
「なんで連続性があるかのように錯覚できるんだ?」
「うん。そこなんだがね。実は【声優ファン】という切り口で見た時には連続性が見えてくるんだ。70年代にも層としての【声優ファン】は存在し、今でもいる。声優ファンの連続性は確かにある」
「逆にいえば、【声優ファン】以外の部分での連続性は乏しいわけだね?」
「そうかもしれない。何かが途切れていることは確かだろう」
「それで恐い考えになってしまったが」
「なんだね」
「君は、【今のオタクに本当のアニメファンはいない。いるのは声優ファンだけだ】と言っているが、つまり他の者達が脱落して声優ファンだけが残っているのが今のオタクということかな?」
「さあね。そこは良く分からないよ」