「ともかく、三蔦苑は下高井戸から近すぎる。江渡狄嶺は全力で追求するしかないと割り切って、展示ガイドは必ず聞こうと思っていた」
「それで?」
「でも、家でガス機器と電気機器の工事が入って真っ青だ」
「えー」
「しかも、工事業者が遅れて到着」
「大ピンチ」
「でも、予定より早く作業が終わったのでホッと一息。だがそれでも時間は少ない。慌てて自転車を漕いで荻窪に向かったよ」
「それで間に合った?」
「十分に間に合った。ホッと一息だ。かなりの疲労を代償に差し出したがな」
「ダメじゃん」
感想 §
「思ったことはあるかい?」
「意外と人が多くて、後ろからではよく見えなかった」
「えー」
「解説者の学芸員は前回質問に答えてくれた人。再会であった」
「そこは安心して聞けたわけだね」
「やはり、解説を聞いているといろいろ気付くことがある。来て良かった」
「具体的に君が感銘を受けたことは?」
「狄嶺の狄は北狄の狄。青森出身の狄嶺が自分で付けた名前だが、青森出身の自分を北狄になぞらえているのは面白い。気に入った」
「それだけ?」
「話が農本主義に回帰したのは興味深い」
「なぜ君が農本主義?」
「もののけ姫の時に網野史観と言われたので網野善彦の本を読んだから出てきた」
「それも再会か」
「あと、キリスト教との関係がやはりあるらしいぞ」
「話が複合的に広がっていくね」
「あと渡米の費用の話も面白かったね。貧乏の狄嶺がなぜ渡米できたのか」
「なぜ?」
「いろいろ金策したらしいぞ。あと奥さんが金持ちの娘」
「えー」
余談 §
「人生には生き方そのものが変化するモードの変わる瞬間というものがある。過去にも何回かあった。今もその時期ではないかという気がする」
「絶対に避けては通れない江渡狄嶺と出会ってしまったわけだね」
「富徳芦花なら概要を撫でるだけでも良い。だが、江渡狄嶺は避けるわけにはいかない」