「ちょっと杉並中央図書館で調べ物があったので行ってきたが、1年以上の工事に入る直前で焦ったぞ」
「その間は使えないんだ」
「臨時窓口はできるらしいがな」
「それで?」
「ついでなので、2階の資料室に行ってハイキングの本はありませんか、と質問してみた」
「ネットでの検索はしているはずだろ? なぜ質問を」
「司書の人は別の観点から調べてくる可能性があるからだ」
「それで何か分かったのかい?」
「うん。実は重大なことが分かった」
「それはなんだい?」
「なんと昭和31年の【武蔵野:百円ハイク】(角川書店)が出てきた」
「それはなんだい?」
「これを所存している図書館は少ないよ。国会図書館のデジタル閲覧可能な書籍なので、世田谷の中央図書館の専用端末で見てきた本だ。そうでもしないとなかなか見られない本だと思っていた。まさか、現物が自転車で行ける距離にあるとは思ってもいなかった」
「なぜ見落とした」
「検索して了解した。【武蔵野:百円ハイク】では出てこない。杉並の図書情報では【百円ハイク武蔵野】の名前で登録されていて引っかからない」
「なぜそうなる」
「実はこの本、少しおかしいんだ」
「どうおかしいんだ?」
「奥付の表記は確かに【百円ハイク武蔵野】になっていて食い違っている」
「なんてことだ」
「ちなみに、【百円ハイク武蔵野】で検索すると都立図書館サイトの串刺し検索でヒット件数13件で少しだけレア度が緩和された」
「でも、杉並区に隣接する区にはどこにもないね」
「ああ。東京23区の区立図書館で所蔵しているのは品川区と杉並区だけ。やはりレア度は高い」
なぜこの本が重要なのか §
「さて、これがなぜ重要かを説明しよう」
「野猿峠ハイキングコースが掲載されているから?」
「それはこちらの事情。杉並区には関係ない」
「じゃあ何だよ」
「実は芦花公園から久我山を経由して井の頭公園まで行く玉川上水沿いのコースが掲載されている」
「世田谷区から杉並区を経由して三鷹市まで行く経路だね」
「つまり、昭和31年頃、まだこのあたりはハイキング可能な郊外だったのだ」
「玉川上水が開渠だった時代だね」