2021年06月15日
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なぜ未来予測と予言は区別されないのか・近頃、世間で見かける精神病理の典型的なパターン

Written By: 川俣 晶連絡先

 なぜ、「XXしないとこんな惨劇が起こるぞ」という警句が、「惨劇など起きなかった。嘘つき」と言われるのか。XXしたら惨劇は起きないという予測なのだから、惨劇は起きなくて当たり前なのだが、そう理解できない人が大勢いる。

 仮定を扱えないのは近年良く見る精神病理の一種である。

 これは、【無時間性の病理】として一般化してみた。

 無時間性の病理では、時間の概念が存在せず、常に現在しか存在しない。このような精神は仮定の問題を扱えない。未知の未来は概念として存在しないからだ。だから、「XXしないとこんな惨劇が起こるぞ」のうち、「XXしないと」という部分は意味をなさない。そもそもそれを解釈する思考回路が存在しないからである。とすれば、残るのは「こんな惨劇が起こるぞ」だけであり、ただの予言になる。

 この手の最近よく見かける精神病理には、無時間性の病理の他にどんなものがあるのだろうか。

  • 個の確立の失敗(私とあなたの境界が不明瞭。基準が常に私。私と違う他者が存在しない)
  • 昔から続く伝統の錯誤(子供の頃にあったものは昔からあるという錯誤)
  • 虚構と現実の曖昧化
  • そもそも抽象概念を扱えない

 個の確立の失敗とは、私とあなたの境界が不明瞭であることを意味する。だから、ネットにはあたかも自分が安倍晋三やトランプであるかのように語る者が多い。日本への批判、安倍晋三への批判、トランプへの批判がまるで自分への非難であるかのよう感じられて思わず反応してしまうタイプである。また、苦しい首相の胸の内を本人でもないのに代理で語ってしまうケースもよく見る。このタイプは、自分と同じように考え、感じるのが当たり前であり、それができない者は欠陥品あるいは敵に洗脳された者と考える。当人にとってはそれが自然な解釈である。

 昔から続く伝統の錯誤とは、子供の頃にあったものは昔からあるという錯誤である。だから、今どきの老人達は太平洋戦争期の軍国主義を日本の伝統だと錯誤するが、実際には昭和8年頃から20年頃までの割と短い期間しか存在していない【満州国建国に端を発する軍隊ブームの時代】があったというだけのことでしかない。一般の日本国民が天皇陛下万歳と言っている時代はほとんどなく、明治時代の教育を受けた者達が国民の大半となる明治中期以降の話になり、これも日本の伝統とは言いがたい。しかし、子供の頃に浸った文化が昔からあるという漠然とした印象になりやすい。

 虚構と現実の曖昧化とは、2つある。1つめは【アニメ/ゲームと現実の境界】の問題だ。ゲームをやるとゲームと現実の境界が曖昧になると批判されるが、実際にゲームをする側は違いが明確に分かる決まっていると反論する。ただ、ゲームと現実は違うもので当たり前でも、境界は自明ではない。たとえば、アニメの中のお約束、設定と、現実の区別が曖昧な人は多い。巨大ロボットなら実在しないと理解できる人も、本当っぽく描かれた架空の存在について、「XXは本当にあると思っていた」という事例は多い。問題は区別できるかではない。境界の曖昧さである。

 虚構と現実の曖昧化の2つめは、自然発生的なデマや詐欺師のフィクションが事実として出回る問題である。これは一般人の裏付けを取る能力が低いことによって起こる。一般人は一次ソースを調べると言った常識的な手順を知らないし実行できない。せいぜい、ネットをググってみるのが精いっぱいだ。そこで同じようなことを言っている人を見つけると「裏付けは取れた」と考える。これは完全に教育の敗北である。

 そもそも抽象概念を扱えないとは、具体的な対応物が存在しない概念を扱う能力を持たない人が多いことを意味する。典型的なものは経済で、通貨は抽象的な存在ということがイメージできない者は、具体的な札をやり取りするような光景を通じてしか経済をイメージできない。だから、無から通貨が発生することも、通貨が消えてしまうこともイメージできない。ただ、「通貨が紙切れになる」という概念は理解できるようだ。しかし、そのイメージにおいても通貨は「紙」である。あくまで紙は残るのだ。

まとめ §

 これらの精神病理は本人の資質の問題なのだろうか。

 本人の資質に起因するものが存在しないとは言えないと思うが、教育で救えたものは多いと考える。つまりは、教育で敗北したのだろうと思う。

 具体的に教育の何が敗北しているのか。

 たとえば、個の確立を助けるどころか、集団スポーツの部活動で個を潰すような教育がまかり通っていたり、健全な疑いを持つ精神や、裏付けの取り方の方法論などを教えていないのが問題だろう。

 こういう教育は「国家あるいは目上の者に逆らわない従順な国民の生産」という意図があって行われているのかもしれないが、実際に産み出されているのは「国家に従順な国民ではなく、国家よりも詐欺師に従順な国民」である。そういう意味で、完全に日本の教育は敗北しているものと思う。

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