2004年05月23日
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ごく一部の読者を思いっきり「ずっこけ」させるLinuxの生みの親はLinusではないという記事

Written By: 川俣 晶連絡先

 コンテキスト意識の希薄化の産物でしょうか。

 けっこう、ずっこけちゃう記事がありますね。

Linuxの「生みの親」は本当にトーバルズか?--疑問を呈するレポートが発表へ

 この記事ですが、たとえば以下の部分などは、MINIXがどういうもので、そこからLinuxにどうつながるのか、というコンテキストに関する認識がずっぽり抜け落ちているように感じられます。

 この調査レポートによると、何年もOSの研究に携わってきた経験があり、実際にUnixのソースコードを目にしたこともあるTanenbaumが、3年という時間をかけてMinixをつくることは十分に可能だという。「しかしながら、まだ一介の学生にすぎず、OSの開発に携わった経験も事実上全くなかったLinusに、Tanenbaumと同じことができた--しかも6分の1という短期間でそれができたというのは、非常に疑わしい」(同レポート)

 ちなみに、Linusならぬ、一介の学生だった私にも、おそらくその時点でのMINIXと同程度のOSを開発することは可能だったでしょう。(それ以前に8bit時代に自分でOSを書いたという話は抜きにしても)

 なぜそれが可能か?

 理由は簡単です。

 MINIXのソースコードを解説するOSの教科書的な書籍があったからです。たぶん下記の本 (MINIXオペレーティング・システム) で良いと思いますが、日本語訳が出た時に私も買いました。そもそも、MINIXというOSは、OS解説本のために作られた解説用OSだったような印象もあります。

 この本では、詳細はもう忘れましたが、カーネルの様々な機能について、詳しい説明付きでソースコードが解説されていたように思います。それを参考にしてプログラムを組めば、MINIX似たOSができるのは当たり前。しかし、その書籍の趣旨から言えば、書籍から得た知識で実際にOSを作ってみるのは当然想定される使い方であって、それが何らかの問題となることは、ちょっと考えにくいような気がします。

じゃあ、どうしてLinus以外は作らなかったのか? §

 そこで出てくる疑問としては、誰でも作りうる余地があったとしたら、どうして誰も作らなかったのか?というものがあると思います。

 その理由は簡単です。(他にも理由があるかも知れませんが)

 苦労する割にメリットが少ないからです。

 OSというのは、簡単なものであっても、作るのは大変です。それにも関わらず、アプリケーションソフトが無ければOSは無価値です。

 自分だけの俺OSを作っても、アプリを作っている人達が、それに対応してくれる訳がありません。

 かといって、既存アプリに期待して、他のOSの互換OSとして作ろうとすると、対象OSの持っている機能を全て作った上で、互換性を確保しなければなりません。ちょいと簡単にできる話ではありません。

 分別をわきまえた大人であれば、何かそれが必要とされる明確な理由と、それなりの予算抜きで、自分でOSを作ろうなどと思わないと思います。

 それにも関わらずLinusが作ったのは、彼が若く、かつ、そのような活動の中心地から遠く離れた異国の住人だったからではないかと推測します。彼の初期の行動は (それとも今の行動も?)、明らかにプロの常識を欠いた素人の暴走ですが、この業界はしばしばそのような暴走行為を行ったものを成功者に仕立て上げます。素人がプロを乗り越えてしまう状況が起こるのです。むしろ、素人だからこそ乗り越えられる壁があるというべきでしょうか。

 (たとえば、Turbo Pascalの成功もそのようなパターンであるかのような話をどこかの本で読んだような記憶があるような無いような……)

それはさておき、「発明」って何だろう? §

 それよりも謎なのは、「発明」という言葉です。通常、プログラムを作成する行為に使わない言葉ですよね。

 そういう言葉が出てくる時点で、記事で扱われている内容は怪しいと警戒すべきかもしれません。最後の方に出てくる、マイクロソフトの陰謀である、というような陰謀史観的な話も含めて。

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