正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
1年戦争後期のある日、アジア北部方面司令部から、最前線基地へ命令書を渡すべく、1機のドラゴン・フライが飛び立ちました。
パイロットは、子供の頃から電動ラジコン飛行機を飛ばして、競技大会での入賞経験もある伍長でした。
ドラゴン・フライは冷たい空気の中、エンジンも快調に飛行を続けました。エンジンを後部に積んだドラゴン・フライですから、前方視界は良好。晴れ渡った空には何の問題も無いように見えました。
ところが、ふと上を見上げると、小さな黒い点がいくつがドラゴン・フライとは逆の方向に移動しているのが見えました。
帰還する友軍機かな、と伍長は思って気にもとめませんでした。しかし、それは司令部を襲撃するために飛来したザク搭載のドダイYS部隊でした。
しかし、ミノフスキー粒子の通信妨害のため、自分が飛び立った基地が襲撃されているとは気づきもしない伍長は、そのまま予定通りの針路を飛び続けました。
ドラゴン・フライは、地文航法が行われることが多く、伍長は鼻歌など歌いながら、地上の目立つ目標を確認しながら針路を維持していました。あの道路に沿って飛行して、湖に達したら、そこからはあの山を目指して……と伍長は何度も飛んで覚えてしまった地文を確認しながら飛行しました。ドラゴン・フライはGPSやデジタルナビゲーションシステムも搭載していましたが、ミノフスキー粒子の妨害で正常に動作しないことがありました。そこで、地上目標を確認しながら飛んだ方が安全確実だというのが、ドラゴン・フライのパイロット達の多数派の意見でした。
そして、小さな山を1つ超えて砂漠の上空に出たとき、ドラゴン・フライの後方から接近してくる黒い点がありました。
伍長はバックミラーの中にそれを発見すると、慌てて後方を確認しました。
それは、伍長が離陸した司令部を攻撃した帰りのザク搭載のドダイYSでした。僚機とはぐれて単機で帰投するところでした。
伍長は慌てました。こんなことは滅多に無いことですが、もし出会ってしまえば、生還は期しがたいとされていました。こういう場合に取るべき手段は、重要書類焼却後に、機体を棄ててパラシュート降下が適当とされていました。
しかし、その時、伍長は貴重なエロ本の束を座席の下に積んでいました。どうやって撮影したのか、マゼランの艦内で、グラマーな女性達が、連邦軍の制服を半分以上脱いだ状態で扇情的なポーズを取っている、という内容でした。もちろん、そんなものが撮影され、しかも流通しているとばれれば、軍法会議ものです。機体を棄てたとしても、それが1ページでも残って回収されては大変です。
伍長はぎりぎりまで粘ることを決意しました。
ドダイの方が速度が速いので、見る間にドラゴン・フライは追いつかれていきました。ドダイの方もドラゴン・フライを確認したようで、針路を変えて寄ってきます。ドラゴン・フライは貴重な機密情報を運んでいることが多いということが、ジオン軍に知られていましたから、ドダイのパイロットがドラゴン・フライを撃墜して、運んでいた文書を回収しようと思うのは当然の事態でした。
そして、ザクマシンガンの射程に入ると、容赦なくザクは撃ってきました。
伍長は慌ててドラゴン・フライを急上昇させて失速させると、そのまま降下して逃れました。ドラゴン・フライの予想針路に向けられたザクマシンガンの射撃は空振りに終わりました。
ドダイは大きく旋回しながら、再びドラゴン・フライを攻撃する針路に乗りました。
伍長は冷や汗をかいていました。一度は回避できたものの、次も避けられるという保証はありませんでした。しかも、速度は圧倒的にドダイの方が速く、振り切って逃げられる可能性はありませんでした。ひたすら回避し続けて、敵が飽きて見逃してくれることを期待するしかない。伍長はそう思いました。
しかし、不思議なことに突っ込んでくるドダイ上のザクは、ザクマシンガンを構えてはいませんでした。
伍長は不思議に思いながら、後方をちらちら見ながら操縦を続けました。
すると、突然、ドダイYS本体の前方機銃が火を噴いたではありませんか。
伍長は自分の間抜けさを呪いながら、緊急回避機動を行いました。このとき、何発か翼を貫通したようでした。しかし、貫通力のある敵弾は、ペラペラの薄い合成樹脂製の翼を全て通り抜けてしまい、致命的なダメージとはなっていませんでした。
ようやく伍長は悟りました。ザクマシンガンだけでも怖いのに、ドダイの機銃にまで狙われるとは。これはもう終わりかも知れないと伍長は思いました。しかし、エロ本がばれても、伍長の人生は終わりです。
続きます。
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