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紀伊國屋書店

2003年11月09日
川俣晶の縁側過去形 本の虫感想編total 3363 count

OK?ひきこもりOK! 斎藤環 マガジンハウス

Written By: 川俣 晶連絡先

 この本は、入手編に書いた通り、もう1冊の本を買うときに、送料無料になるには少し安かったので、ついでにオーダーしたものです。しかし、対談集という性格上、仕事の合間に頭を休めるには読みやすそうだと思って開いた結果、最初に読み切ることになってしまいました。

 さて、読後の感想を一言で言えば、「とても良かった」と言うことになります。

 何が良かったのかというと、私が抱えている根本的な問題に対するある種の共感とある種の視点を与えてくれたことが理由にあります。

 たとえば、斎藤環氏と宮台真司氏の対談で、私自身が抱え込んでいながら、なかなか理解されることがない、と言うより言い出すことも難しいことが、二人の間の当然の理解として話が進んでいるのを読むのは気持ちが良いですね。たとえば、以下のような部分です。

p179~p180

ですからスキル・アップ時に大事なのは、コミュニケーションの無根拠性に対するセンスも磨くことだと思います。

 私自身は、今、コミュニケーションに最大の価値を置いていて、コミュニケーションの可能性を高めることが重要であると主張していますが、それと同時に完全なコミュニケーションは不可能であるということも前提としています。しかし、完全なコミュニケーションは不可能という主張はまず理解されないし、更に、不可能であると主張しつつコミュニケーション可能性を高めるべきであると言ったりしても、まず理解されることはあり得ないでしょう。しかし、この本では、「コミュニケーションの無根拠性」について、それが当然の前提として話の中に出てくるところが、とても嬉しいところですね。もちろん、彼らの言う 「コミュニケーションの無根拠性」が私の考えと同じ、あるいは関連するものであるという根拠はありません。しかし、共感できるということが重要なのです。

 更に、宮台氏の言う「コミュニケーション・スキルが重要」という意見も、かなり近いものがあるのかもしれません。つまり、「コミュニケーションの無根拠性」を前提としつつ、「コミュニケーション・スキルが重要」という話に進んでいく構造が、私の考えていることに似ていると感じました。根拠はありませんが。

 余談ですが。最近、コミュニケーションの本質をよく表現しているととても感心した文章を以下に引用しておきます。

日経サイエンス 2003年12月号114ページ

瀬名秀明の時空の旅 第14回 工学で探る知能とは何か ナビゲーター 中島秀幸

より

(コンニャク屋と大僧正が無言の問答をして、二人は全く違うことを考えていたのに、対話が成立して大僧正が負けた、というコンニャク問答を説明した上で)

瀬名 全然違う内容だけど、対話が成立したわけですね。

中島 コンニャク屋が買って大僧正が負けたという点でも、お互い一致している。2人とも、それぞれ自分の思いこみが正しいかどうかを検証するすべはないのです。そういう目で対話システムを作りましょうと最近言っているんです。コンニャク問答ができれば、それでいいじゃないかと……。

 おそらく、これを読んでいる読者の中には、コンニャク問答ではいかんとか、話せばいつかは分かるはずだと思う人もいると思いますが、そういう考えはコミュニケーション可能性を高める上ではむしろ邪魔になるのではないかと思います。これも根拠はありませんが。

 さて、話を続けましょう。

 この本で最もショッキングだったのは、アルコール依存症の患者の自助グループなどで知られる言葉として引用された以下の言葉です。

p274

平安の祈り

神様、私にお与え下さい

変えられないものを受け入れる平安を

変えられるものを変える勇気を

そして、この二つを見分ける賢さを

 これについて、斎藤氏は以下のように書いています。

世代を超えて衝動性を高めているのは、実は「賢さ」の不足なのではなだろうか

「変えられるもの」と「変えられないもの」を見分ける知性。それを明快に語り、示すことができる「大人」の不在。これこそが、現代における成熟を困難にする最大の要因なのだ

 この部分は、私自身がこのオータムマガジンで書かねばならないと思っていた1つの重要なテーマと完全に合致します。(と思いました。根拠はないけど)

 しかも、私が書いたであろう文章と比較して、はるかに短く、はるかに深く的確です。

 この種の「賢さ」の欠如は、特にIT業界に幅広く見られます。たとえば、最近では、「Webサービスでコンピューティングが大きく変わる」と言った意見が、この種の「賢さ」の欠如を示す典型例です。確かに、昔から、変えられるものを変えられないと思い込むタイプの保守的で頑固なタイプの人間は多く見られました。しかし、最近問題として感じるのは、変えられないことが経験的にも理論的にも既に分かり切ったことが、いともたやすく「変えられる」という主張にすり替えられ、それを信じる追従者を得るということです。そして、そういう「賢さ」の欠如したタイプは、変なところで子供っぽく、成熟していない感じを受けることがあります。

 それとは別に、たまたま自分が学んだことが唯一絶対の変えられないものであると思い込んでしまい、時代の変化の妨げになる、『頭は良いが「賢くはない」若者達』の存在もあるように感じられます。(たとえばオブジェクト指向やJavaの絶対視に自ら疑問を差し挟むことが出来ないタイプ。他のやり方を知らなければ当然の帰結?)

 とりあえず、「賢さ」の欠如の問題に直面したときは、このお祈りの言葉を唱えてみようと思います。たぶん、それで問題は解決されないでしょうけれど。

 余談ですが、可能であることと、そうではないことを識別するのは、20世紀の科学の成果としてよく見られるものだと思います。科学が進歩すれば何でもできるというのは19世紀的で、それは古い思想です。たぶん。保証はできませんが。その点で、この「賢さ」とは20世紀科学的であると感じます。

 他に良かった言葉を引用します。

p297

社会における病理の総量は一定である

 これは良いですね。私が内心思っている「人間は抱えることが可能な一定量の不幸を少なくと必ず抱えている」という主張と、どこかで通じているような気がしました。いや本当に通じているかどうかは分かりません。根拠の無い言葉です。

 最後に、未来への展望をきちんと述べているところが、とても良いですね。

 以下のような部分がそれにあたると思います。

p307

例えば「ひきこもり」問題は確実に減少していくはずです。今の若い親たちのほとんどは、わが子を無条件に溺愛し、抱え込むことができません。

(中略)

しかしまた、そこに新たな病理や問題が生じることも間違いないでしょう。

 この文書は、斎藤氏が、世界を動的な存在であると認識していることが読み取れます。よくある頭の良い人が陥る錯誤は、世界を静的なものとして捉えて、不都合のある場所を正せば良い世界が訪れるとすることです。しかし、世界はどんどん変わっていくのです。変化が訪れることを当然の前提として世界を見る視点は重要なものです。そして、未来がけしてハッピーエンドではないことも示唆されていますね。このあたりは、実にストレートで良心的で誠実だと思います。

 というわけで、本当に書こうと思ったら何倍も感想を書けますが、きりがないので、このへんで終わりにしておきます。

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