2004年03月19日
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「萌え」という言葉は恐竜惑星のヒロイン鷺沢萌を語源とする

Written By: 川俣 晶連絡先

 誰が言い出したのか、まことしやかに流布される謎の解釈。

 今回のIT都市伝説はこれだ!

「萌え」という言葉は恐竜惑星のヒロイン鷺沢萌を語源とする §

 gooが提供する三省堂提供「デイリー 新語辞典」より検索を行うと、「萌え」の解説が見付かります。

http://dictionary.goo.ne.jp/search.php?MT=%CB%A8%A4%A8&kind=jn&mode=0

もえ 【萌え】

ある人物やものに対して,深い思い込みを抱くようす。その対象は実在するものだけでなく,アニメーションのキャラクターなど空想上のものにもおよぶ。

〔アニメ愛好家の一部が,NHK のアニメーション「恐竜惑星」のヒロイン「鷺沢萌」に対して抱く,ロリータ-コンプレックスの感情に始まるといわれるが,その語源にも諸説ある〕

 恐竜惑星の鷺沢萌を起源とする説は、オタクを社会的に認知させた名著と言われるオタク学入門 (岡田 斗司夫著)に記述されたものです。その他に「当時盛況だった大手草の根BBS「メイプルタウンネットワーク」においては恐竜惑星以前には「萌え」という表現が見当たらないという結果が出ているので概ね正しいと考えられる」というような意見を表明するようなサイトもあります。萌えの起源は恐竜惑星の鷺沢萌という解釈は、一般の新語辞典に採用されるほど、社会的にも認知されていると言えます。

「んなわけあるかい」と笑われた話 §

 ところが、この社会的に認知されているはずの話は、当然のこととして受け入れられているかというと、そうではありません。

 そもそも、このオタク学入門という書籍からして、確かに一般人にも分かるようにオタクを解説した本としての存在意義はあるものの、内容には濃いオタクに言わせると「おいおい」という部分が多い本として、酒の席で笑いのネタになっていた状況もあります。(というか、自分もネタにして笑ったんですよ。岡田さん、すいません)

 そこで、笑いのネタになった話の1つが、「萌え」の語源は恐竜惑星の鷺沢萌という話です。それよりも前から萌えという言葉が使われていた以上、それが語源であるわけがありません。ただ単に、キャラの名前に同じ文字があるという以上の意味は見いだしにくいところです。

 ところが、驚いたことに、あれよあれよという間に、この鷺沢萌説は社会的に認知され、それを疑うことなく主張する人達だらけとなっていました。

2005年9月29日追記・鷺沢萌という名前そのものが誤りである §

 指摘があったので補足を追加しておきます。

 典拠だけでなく、「鷺沢」という姓そのものが誤りであるということです。

 恐竜惑星の中で「萌ちゃん」には姓は存在しないはずです。なぜ姓が存在しない名前があり得るかとえいば、作品設定上彼女の本名は山口美沙であり、「萌」という名前はバーチャル世界の仮想人格に与えられる一種のハンドル名であるからです。

 しかし、初期設定においては、彼女には「結城」という姓が与えられていたようです。

 その典拠は、たとえば扇堂まひょうさんのサイト掲示板に、本作の恐竜設定として名前を連ねる金子隆一さんの投稿等に求められることができます。それを以下に引用します。

萌の本名 投稿者:金子隆一 投稿日:2003/08/15(Fri) 01:23 No.68

萌のフルネームですが、実は初期設定では「結城萌」となっていました。それがいつの間に鷺沢となってしまったのかというと、どうもオタキングがその著書の中で、「萌え」の語源を説明する際に、誤って実在の女流作家の名前を書いてしまったのが始まりのようです。

はたして恐竜惑星に、人気用語の発信源となるだけの存在感があったか? §

 恐竜惑星というのは、はっきり断言しますが、極めてマイナーな作品です。一部で、熱狂的な支持を受けていた革新的な作品ではありますが、アニメファンのマスを動員するような作品ではありませんでした。厳密に同じ位置づけではありませんが、たとえば、宇宙戦艦ヤマトの「こんなこともあろうか」であるとか、セーラームーンの「月にかわってお仕置きよ」といった、広く使われるようになった言葉もありますが、それと同じような伝播力が恐竜惑星にあったとは考えにくい状況です。

 そもそも、本当に恐竜惑星を見たことがあるオタクなど、ほんの一握りに過ぎないでしょう。恐竜惑星は本放送時点ではビデオソフトやレーザーディスクでは発売されておらず、見るにはTVを見るか、あるいはそれを録画したビデオを見るしか無かったものです。しかも、天才テレビくんというバラエティ番組の1コーナーであるため、放送は不規則で、簡単に全てを見られるようなものではありません。ごく最近になって、DVDが発売され、見るためのハードルが下がりましたが、これとてもそれほど大量に売れているようには見えません。

 このようなアニメが、「萌え」のように広範囲で使われる言葉の語源になったという考えが、すっきりとは受け入れがたい感じがあります。

 むしろ、こう言った方が適切かも知れません。

 恐竜惑星と鷺沢萌の名前は、「萌え」の語源とする説によって世の中に広まったものであり、それが無ければほとんど知られることもなかったと。

 その証拠に、恐竜惑星から始まるVシリーズの続編とも言えるジーンダイバーののヒロイン「唯」は、Vシリーズファンの間では人気が高いものの、鷺沢萌と異なり、それ以外の世界では、ほとんど名前が出てくることはありません。

諸説並び立つ? §

 更に、調べてみると、萌えの語源問題は諸説が並び立ち、泥沼化している状況であることが分かりました。「燃え」の誤変換説というのは、鷺沢萌説よりは納得できますが、美少女戦士セーラームーンの「土萠ほたる」説というのはかなり苦しい感じを受けます。そもそも、萠は萌と字が違います。しかし、それを主張する人達には、それなりの根拠と信念があるようです。

 しかし、ここで気になることが1つあります。

 それは絶対的な正解が1つあって、それは自分の目の届くところで起きていた、という暗黙の前提です。

 私の感想から言うと、おそらく、この前提は成立しないような気がします。

 というのは、おそらく、「萌え」の語源は1つではない可能性が十分にあり得ると思うためです。そして、おそらく「萌え」はオタク文化としてはマイナーな領域から普及が始まった、という印象があります。(注: このページでは、恐竜惑星以前の「萌え」が使われた場所として「少なくとも鮪系と呼ばれるBBSでは」と記述されています。鮪系とは冒頭に出てきたメイプルタウンネットワークよりも、マイナーかつ先鋭的な集団です。パソコン通信時代によく使われたMAKI,MAGといった画像フォーマットを開発した他、Macintosh、Photoshopなどを駆使してオタク好みのフルカラー画像を描き、JPEG形式で公開するというスタイルが確立するプロセスにも、鮪系が大きな役割を果たしている印象があります。鮪系に関しては、ソフトバンクから「まぐろのすべて」という書籍が出版されたことがあり、これを見れば多少は分かると思いますが、現在は入手できないでしょう。うちにもありましたが、本が溢れすぎたときに、他の多くの本と一緒に処分してしまいましたので残っていません)

 語源が1つではない、というのは、「萌え」を発明した人物が一人ではない可能性があると言うことです。また、発明者が特定できず、曖昧であるという可能性もあります。たとえば、「燃え」の誤変換から始まった可能性が十分にあり得るとすれば、誤変換は誰もが起こす可能性がありました。そして、誤変換を面白いと思って、それを使い始めた人間が、複数いてもおかしくありません。世の中のどこかに、既に「萌え」を使っている人がいたとしても、それを知らずに、数年も経ってから「萌え」を再発明する状況もあり得ると思います。

 また、誤変換を前提とすると、どこまでが誤変換で、どこからが意図的な用法かが曖昧になります。たとえば、書いた本人は誤変換であったものの、それを読んだ読者が新語であると認識した場合、はたして「萌え」の発明者が存在すると言えるのか。

 以上のようなことから考えると、「萌え」の語源の探索は、絶望的に困難であるかも知れません。

 しかし、鷺沢萌説が不適切な解釈であるということは、十分の検証可能だと考えます。まず、仮に鷺沢萌という名前によって「萌え」を発明した者が実在するとしても、現在の「萌え」という流行の起源とするには、それだけでは弱いと言うことです。「萌え」の起源が諸説並び立つ状況で、鷺沢萌説だけに特権的に意味のある立場を与えることはできません。やはり、最初に発明した者まで辿らなければ、全体としての流れは見え来ないでしょう。

 そして、実際に、鷺沢萌以前(あるいは、土萠ほたる以前)に、相異なる複数の人間による「萌え」の用例が発見できれば、「萌え」の起源としての鷺沢萌説は不適切となります。

はたして、検証は可能なのか §

 さて、ここまでは前振りです。

 このような状況を前提に、はたして検証可能であるかどうかが問題となります。

 検証する手段が無いこともない、と言うことを思い付きました。

 要するに、パソコン通信時代の通信ログに全文検索を掛ければ良いのです。

 今からは理解できないことでしょうが、あの当時は通信費用がべらぼうにかかり、しかも通信速度もべらぼうに遅かったので、通信結果を全てログとして残すことは当たり前に行われていました。ですから、数十枚(あるいは100枚を越えてしまうだろうか?)のフロッピーディスクに、大量の通信ログが残されているのです。(読めなくなったメディアが無ければ……ですが。そういえば、初期のLHarcで圧縮して解凍できないファイルもあったような気がするな。ちなみにLHarcはLHaの旧名です。念のため)

 手元に残っているログのうち、鷺沢萌以前(あるいは、土萠ほたる以前)のものだけを集め、それに対する全文検索を行うことは技術的に可能です。

 鷺沢萌以前に「萌え」という言葉を複数回見た記憶があるので、その記憶が正しければ、複数の用例が見付かるでしょう。

 それが十分に広範囲でかつ明快な用法であるなら、鷺沢萌説は不適切であると言えるのではないかと思います。

でも、検証はできないのであった §

 時間が無いですからね。実際に検証することはできません。

 誰か、パソ通時代のログを大量に持っている暇人がやらないかな、とも思いますが、何せマイナーな世界で使われていた言葉である可能性が高そうなので、ログが大量にあれば見付かるものかどうかも定かではありません。ある人のログに見付からないと言って、用例がないという証明にならないのが難しいところですね。

実は恐竜惑星は極めて良い作品 §

 実は恐竜惑星は極めて良い作品です。

 アニメ、CG、実写の映像を1つのフレームに納めるという斬新な映像もさることながら、内容も素晴らしいですね。恐竜に関する当時の最新の情報なども反映されています。それだけでなく、物理的にあるべき制約の多い描写もなかなか見応えがあります。たとえば、タイムブースターという装置によって萌は周囲より早く動けるのですが、空気が重くなって自由に動けません。しかし、石をちょっと動かすだけで、それが弾丸のように凄い勢いで飛び出し、大きな破壊力を発揮します。そして、周囲の空気を呼吸できなくなるため酸素ボンベをくわえねばなりません。手持ちの酸素ボンベが尽きるともうタイムブースターは使えない、という緊迫の演出が光ります。

 このような作品が、いわゆる大きなお友達と呼ばれる大人の視聴者の目を意識せず、完全な子供向け作品として、子供向け番組の枠内で放送されたということの意義は大きいと思います。

 しかし、恐竜惑星が本来の作品の価値とは関係のない文脈でばかり語られるだけでなく、「ロリータ-コンプレックスの感情」のような語句が辞書にまで書かれることによって、アブノーマルな印象を与えてしまいかねません。本来の趣旨とかけ離れたところで、そういう色眼鏡的な先入観を与えられてしまうことは、非常によろしくないことだな、と映像表現や斬新な科学性でこの作品を高く評価する立場から思うわけです。

2004年7月21日17時50分頃追記 §

 これを読んだら、続きとして「萌え」はメイプルタウンネットワークでの恐竜惑星の話題を起源とする 《調査中》もお読み下さい。実際に調査に着手した話が書かれています。

 このコンテンツへはトラックバックによってリンクされていますが、今ひとつトラックバックの意味が理解されていない懸念がありますので追記しておきます。

2004年3月19日15時26分頃追記 §

 今日のチャットより。

15:09 <B> むぅ~。 ほたほたは字が違ったのか~ 知らなんだ~ f(^^;;; < よーやく読んだヤツ

15:20 <B> うみゅ~、まぎらわしぃ~ (^^; > http://homepage1.nifty.com/meimei/profile.html

15:24 <B> ぐぐるさまのお告げ > 土萌ほたる/約568件 土萠ほたる/約538件

15:24 <B> 間違えてたのは、わしだけでないと判って一安心 (w

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