異様な魅力のある、非常に優れたコミックだと思います。
悪のストーリーであること §
最も特筆すべきことは、本質的にこれが悪人を主人公ライトとしたストーリーであり、読者は彼の悪行に感情移入し、彼を応援するように読まされることでしょう。
しかも、実に上手いことに、ライトは途中で記憶を失い、本当に殺戮魔のキラを追いかけます。安心してライトに感情移入していた読者は、あらかじめライトによって仕組まれた計略により、ライトが再び殺戮魔に戻っても、もはやライトへの感情移入を解除できません。それだけでなく、その後すぐに探偵役であるLも死に、ライトではなくLに感情移入するという選択も奪われます。何とダークな話であるか。
その部分に、読者の心の中にある闇の部分を刺激する、何か恐ろしいものがあるような気がします。しかし、その恐ろしいものこそが、この作品に人を惹き付ける魅力であり、他の作品ではお目にかかれない価値でしょう。
読者は、時として、読みながら自分の心の暗黒と向き合うことがあり得るかもしれません。
実に興味深い作品です。
常識と非現実の扱いの上手さ §
この作品で非常に優れているのは、常識と非現実の線引きがストイックに守られていることです。
デスノートの存在を知らない人間は、どこまで行ってもそれを知りません。そして、徹底的に常識的に振る舞い続けます。Lが優れた推理力によって、デスノートの多くの特徴を明らかにしていても、第6巻になって初めてデスノートの名前を書くシーンを見て意味が分からずにうろたえます。
つまり、現実があくまで常識的な現実で有り続けることによって、非現実がこの上なく引き立つわけです。けして、死に神がいるなら、悪霊、妖怪、幽霊を登場させても良いだろう、という方向に進みはしません。実に素晴らしいですね。
確固たるルール §
うろ覚えですが、昔、山田正紀の「神狩り」(実は読んでいないのだけど)を評して、ルールに沿って知力を尽くせば神すら狩れる作品であるという評を読んだような気がします。
それと対比して言うならば、デスノートは、ルールを熟知し、知力を尽くせば、人を殺す死神を人が殺しうるという作品と言えますね。つまり、ルールこそが絶対的であり、それを正しく使った者が、たとえ人間であろうとも勝者となるのです。
人が死神すら出し抜けるという世界観は、とても魅力があります。
総合的な優秀さ §
そして、最終的にたどり着くのは、この作品の総合的な優秀さです。
設定や構成だけでなく、絵的にも非常にバランス良く描き込まれていて、それだけ取り出しても魅力があります。
また、各巻の表紙イラストやデザインも強い魅力がありますね。
手間も掛かっていると思いますが、並のコミックスと比較して抜きん出た出来だと思います。
これは、ずっと本棚に並べておきたいと思うシリーズですね。