2006年09月07日
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パソコン黎明期と話す機械とSpeak & Spellの思い出

Written By: 川俣 晶連絡先

 最近になって知ったのですが、1970年代末からTexas Instrumentsから販売されていたSpeak & Spellという英語の綴り学習用玩具には人気があり、エミュレータも存在するのだそうです。

 以下のリンク先の記事に、状況がよくまとめられています。

 さて、歴史がまとも顧みられる機会が極めて乏しいこの業界ですから、多少は思い出話を書くことに価値があるかと思って書きます。

個人用マイコンの位置づけ §

 1970年代、チップとしてのマイコン(CPU)が誕生した後、それを使った様々な応用製品が出てきました。

 そのうちの最も有名なものは、いわゆる「マイコン」と呼ばれる製品でしょう。「マイクロ」と「私の(マイ)」という2つの意味を与えられた、まさに個人用のコンピュータとして作られた製品です。それゆえに、それはソフトを与えればどのような仕事でもする……という意味で、まさにコンピュータとして売られたわけです。これは、現在のパソコンの直接の祖先にあたります。

Speak & Spellの位置づけ §

 一方で、固定的な専用ソフトがROMに焼き込まれ、特定用途にしか使えない製品もあったわけです。Speak & Spellというのは、そのようなタイプの製品です。

 これは、英語学習用の玩具です。音声で発音される英単語を聞き、その綴りを正しく入力できるかを競います。

 さて、実際にSpeak & Spellの現物は秋葉原でも見られました。

 それを見て、当時に私が魅力を感じたのか……というと、そうではありませんでした。

 多機能デバイスとしてのマイコン/パソコンは、1台あれば、昨日はスタートレック、今日はインベーダー、飽きたらミサイルコマンド……といった使い方ができ、高価ではありますがコストパフォーマンスは良いと言えます。

 しかし、Speak & Spellはあくまで単機能のデバイスであり、しかもすぐに飽きが来そうな遊びor学習にしか使えません。しかも、あくまでアメリカ人向けの製品であって、日本人が使って楽しそうなものではありません。

 というわけで、個人的にはあまり興味を持ちませんでした。

 しかし、このような製品が作られ、注目を集めるというのは非常に印象的な出来事だったと思います。

音声合成、音声認識の歴史は古い §

 いや、当時喋る機械は珍しかっただろう……という異論があり得ると思います。

 珍しいから注目すべきだという主張です。

 しかし、そうではないのです。

 パソコン上の音声合成、音声認識はおそらく1990年代後半ぐらいから話になってきたような気がしますが、実はそれを指向した製品は1970年代から珍しくなかったと言えるのです。

 いや、もっと正確に言えば、マイコン/パソコン用の拡張カードとして、音声合成、音声認識用のカードは、ハードディスクはおろか、フロッピーディスクに先んじて出現することも珍しくなかったような印象があります。ただし、それらの質はけして高いものではなく、実用水準とは言い難かったような気がします。

アンバランスな発展 §

 音声認識は割とハードルが高かったのに対して、音声合成は比較的早期に実用化します。その1つが、このSpeak & Spellです。

 そして、音声合成は割と安っぽいオモチャ的な感覚で使われていきます。

 たとえば、日本の初期のパソコンとして有名なNEC PCシリーズで言えば、もっとローエンドのPC-6001シリーズでのみ音声合成の機能がサポートされるようになります。つまり、ハイエンドのビジネス機で使うような機能ではない……と見なされていたのでしょう。

 その結果、理想を抱き、顔を上げて「上」を見れば見るほど音声合成という技術を見る機会が減る傾向があったような気もします。

見落とされた用法 §

 上記リンク先の記事を読んで、ハッと思ったのは「テクノミュージックの音ネタとして利用される」という部分です。

 けして良くはない音質で語られるクセのある英語は、それ自体が音声素材として面白いものです。

 しかし、ACIDで音楽を作るようになった今ならともかく、当時はそれに気付くはずもない……とうっかり思いそうになりましたが、それも違います。

 なぜかといえば、当時はシンセサイザーという楽器が個人レベルの趣味で買える水準に落ちてきた黎明期でもあったからです。実際、秋葉原でアナログシンセが触れるように展示されていることもあったのです。そして、当時の私はそれにも興味があって、VCOやVCFという言葉も覚えたし、ノイズを加工してマシンガンの音……などを作ったこともあります。シンセだけでなく、トライダーG7の主題歌を聴きながら「ボコーダーだね」、などと分かった風の恥ずかしい台詞も言っていたような気がします。

 つまり、Speak & Spellの真の魅力に隣接する世界に、一時的に立っていたのは事実と言って良いでしょう。しかし、あくまで隣接する世界に立っただけで、両者を結びつけて考える機会はなかったわけです。その事実に、下手をすれば30年近く経った今になって気付かされるとは皮肉ですが、その皮肉さが面白いと感じました。

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