2007年04月14日
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昭和館・特別企画展「手塚治虫の漫画の原点~戦争体験と描かれた戦争~」

Written By: 川俣 晶連絡先

 時間は無かったものの、無理に昭和館へ行き、常設展の後で特別企画展「手塚治虫の漫画の原点~戦争体験と描かれた戦争~」も見てきました。

昭和館

今までなぜ訪問しなかったのか §

 ずっと以前からこの施設の存在を知っていて、前を通った回数は何回もあるにもかかわらず、なぜ入ったことがないのか。

 よく考えてみると、九段下で戦争前後を題材にした歴史関連施設というと、どうしても靖国神社の遊就館を連想してしまい、似たような趣旨の内容を見たら極めて不快になる……と無意識的に敬遠していた可能性に気付きました。

 遊就館というのは、要するに過去を全てきれい事として展示した施設です。死者にむち打たない……というのなら、過去の負の側面を全て無かったことにした展示を行っても良いでしょう。しかし、生きている人間がこれを「正しい過去だ」などと言ったら、これはあまりに恥ずかしいことです。人間のやることが全て正しいはずはなく、「誤り」や「相手から恨みを買う」ような行為が無かった……などということはあり得ません。それにも関わらず、全てを美化して開き直る行為は「恥」そのものです。今の日本人は「恥」を忘れた……という嘆きは、こういう人達に対して向けるべき物でしょう。

昭和館はどうだ? §

 おそるおそる入った昭和館ですが、結果として遊就館とは180度逆の施設だと感じました。

 これは、遊就館の持つメッセージを「戦争において日本人のしたことは全て良いことである」と解釈し、その逆として「戦争において日本人のしたことは全て悪いことである」と主張している……という意味ではありません。

 そうではなく、資料をありのまま並べ、解釈を押し付けることなく最終的な判断を見る者に委ねるという意味で、遊就館とは態度が180度違うと感じました。

 たとえば、当時の雑誌が手にとって自由に見られるようになっていますが、そこには戦時中の景気の良い好戦的な記事がありのまま載っています。少し拾い読みしましたが、(太平洋戦争の初期の時代の記事として)アメリカ海軍の空母が小規模に繰り返し攻撃してくるのは、大統領の政治的な立場を維持するために過ぎず、政治目的で日本軍の叩きのめされる一方のアメリカ海軍が哀れなどと書いてありました。これを読むと、素直に「へぇ。日本軍って強かったんだな。大統領は自分の保身のために他人の命を危険に晒す悪い奴だな」と思えます。

 そういう資料がゴロゴロと平然と展示されている訳ですから、面白い施設です。何台もあるモニタでは、当時のニュース映像等を見ることが出来ますが、当時の景気の良いナレーションがそのまま付いています。防空演習のニュース映像等は本当に勇ましい内容です。

 しかし、それと同時にその当時の食事がどのように変化していったのかも展示してあり、疎開で出されたという小麦粉を溶いただけで肉も入っていないシチューや、すいとんなどを見ることができます。

 更に戦後の状況も克明に展示してあります。

空襲に備えるゲーム §

 最も面白かったのは、一般家庭が空襲に備える手順を遊ぶコンピュータゲームです。

 楽しげな音楽が流れ、3D表示の家の内外を歩き回って、空襲に備えるための様々な品物を確認します。最後は空襲警報が鳴って、防空壕に入ります。

 しかし、いかに楽しげに見えても、最後に「こうして空襲に備えても十分ではなく、数十万人が死にました」というような趣旨のナレーションが入って終わるという皮肉っぷりがいい!

特別企画展「手塚治虫の漫画の原点~戦争体験と描かれた戦争~」 §

 ですから、特別企画展「手塚治虫の漫画の原点~戦争体験と描かれた戦争~」もそういう趣旨の上に存在する企画展です。

 手塚治虫の戦争体験と、それを背景にした作品群が2本の柱です。

 クライマックスは、鉄腕アトムでもロストワールドでもなく、昭和20年8月15日の夜、大阪の街に灯りが灯っていて「戦争が終わった」と手塚治虫が実感するところだろう……と思います。

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