本日をもって、アニメ感想家は廃業しようと思います。
ここでは、なぜ廃業するのか、今後どうするのかについて書きます。
なぜ廃業するのか §
話は単純で、「量」の問題が対処可能な限界を超えたからです。
これまで地上波VHF限定で一応アニメの新番組の第1話は一通り見て、気に入ったものだけ継続的に見ていました。
しかし、地上波VHF限定という制限を課してすら、もはや対処可能な限界を超えています。
一方で、「私が感想を書かずしてどうする」というアニメはほとんど無くなった感があります。良い作品、努力が見て取れる作品もありますが、作り手の魂が炸裂して理屈を超えて何かを語らねばならない作品はあまり見られない感があります。また、最近「アニメを楽しく見るため」に封印してきたコミックを解禁して読むようになったため、コミック原作のアニメを見る必然性も大きく下がりました。(そういう理由で、のだめカンタービレはアニメでは見ない)。他に、電王、美味學院、パンシャーヌといった特撮がアニメより面白いという状況もあります。
ですので、これにて「何らかの意味で」語ることに人生を掛けたアニメ感想家は廃業とします。
ただし、これでアニメを見ることをやめるわけではなく、見たいアニメだけは見るでしょう。また、それらのアニメの感想を書くことをやめるわけではありません。しかし、たとえ嬉々としてポケモンDPの感想を書き続けたとしても、もはやそれは一人のポケモンDP好きの感想に過ぎず、アニメ感想家の言葉ではありません。
番狂わせ・「負けるために勝つ」作品論 §
という感じで、廃業宣言を書こうと心に決めた日になって、こういう文章を見てしまう悩ましさ。
■マニューバ・ブック■ (550 miles to the Future)
より
でも、省吾は杖を捨てて、何とか恐怖を克服しそうな気配を見せて、ストンと終わる。ちゃんと完結してるんだよね。物語ってのは、テーマを語り終えた時に終わるわけで、主人公の運命がどうのって問題じゃないんだ。でも、今はそれじゃダメらしいね(笑)。ラノベが何巻も延々と続くのは、語り終えるべきテーマが最初からない(必要ない)からじゃないかな。その是非は、自分のこれからの仕事の中で見つけるしかない。
熱い。熱いぜ!
しかも、理解されないことの多い、無印メガゾーン23について、的確に語っている希有な文章です。
特にラストの「杖を捨てる」シーンの重要性をきちんと踏まえています。
私が偉そうに言うことではありませんが、この作品は杖を捨てることで終わっているのです。敗北という覆せない状況を背負いつつ、それでも杖を捨てて自分の2本の足で歩き始めるところが、希望であり、力強さであり、未来なのです。
だから、この作品はこれで的確に終わっていて、続きは要らないのです。(ただし、メガゾーン23PART-2は別の意味で価値があって好き)
より構造を単純に要約してしまうと、無印メガゾーン23とは「負けるために勝つ」という特異な構造を持ちます。普通の作品は、「勝つために負ける」という構造を持ちますが、逆です。そして、負けたという状況を乗り越える精神性こそが真の強さなのです。敵を倒すことよりも、ずっと大きな価値のある「何か」です。
しかし、このような作品構造は、理解されることが少ないと言えます。それは、昔からしばしば言われる「日本アニメの最大の問題は、ファンの質が低すぎることである」という意見からすれば必然的と言えるかもしれません。そもそも、作品に忍ばせたメッセージどころか、明示的に映像で描かれたことですら受け取れないアニメファンがごろごろしているのは、的外れなアニメ感想に満ちあふれたインターネットを眺めれば明らかでしょう。
そのような状況で、こういった作品が的確に理解できると考える方が難しいのかもしれません。
そして、私はそういう作品が好きです。たとえば、私が好きなポケモンアニメも、実は「負けるために勝つ」という構造を持ちます。主人公サトシは勝利を積み重ねて大会に参加しますが、必ず途中で敗退します。クライマックスが常に敗北となる作品なのです。
古い話になると、たとえば特撮のスペース1999の「宇宙船団大戦争」も「負けるために勝つ」という構造を持っていて好きですが、理解されることが少ない作品です。あるいは、「宇宙戦艦ヤマト新たなる旅立ち」という名前を出しても良いでしょう。この作品で結局ヤマトはスターシアを救うことに失敗し、逆に助けに行ったはずのスターシアに救われます。これも「負けるために勝つ」構造の作品と言って良いのではないかと思いますが、そのあたりが良く理解されているようには思えません。
そういうことまで連想されて、思わず「やっぱりアニメについて語るのは止められないのか……」と思ったのですが……。
しかし、こうして的確に語ってくれる人がそこにいるという事実は、別に私が語る必要もないではないか……と気付いたわけです。
というわけで、長々と余談を続けましたが、これが「アニメ感想家」をこれにて廃業する最後の理由付けとなりました。