2007年06月13日
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凄いぞ電脳コイル、そしてサルベージして見るラーゼフォン15話

Written By: トーノZERO連絡先

 既にあちこちで書かれていますが、「電脳コイル」の既に放送済みの全話が6月16日(土)午後3:00~5:00教育テレビにて再放送されます。これはぜひ録画予約を入れておくべきでしょう。

 さて。

 電脳コイルは凄い作品です。

 どのあたりが凄いのかというと、仮想空間での冒険というテーマを完璧に描ききっている上に、ごく当たり前の人間の心のドラマとしての完成度も飛び抜けて高いからです。

 以下要点だけ書きます。

仮想空間のドラマの問題 §

 これまで、仮想空間を舞台にしたドラマやアニメは数多く作られてきました。

 しかし、それが成功した作品は多くないと言えます。

 なぜかといえば、ドラマや特にアニメの世界とはそれが既に仮想空間であり、その上にもう1つの仮想世界を構築することは多重虚構、メタ虚構を導入することになるからです。それは直感的な分かりやすさを損ないます。

 たとえば、仮想空間を使って成功した作品の1つとして、NHK少年ドラマシリーズの「クラインの壺」がありますが、これは「現実と仮想空間の区別が付かなくなる」という主題を描くために、あえて仮想空間を描く価値を提示した作品です。

 しかし、このように意識的に虚構の中で虚構を描くことの価値を活用した作品は多くはなく、たいていは分かりにくかったり、煮え切らなかったり、あからさまに技術的なリアリティから逸脱した作品が多いと言えます。(映画マトリックスは、このような意味で失敗した典型的な作品と見なしている)

 これに対して、電脳コイルは1つの世界を二重に描くという方法で、虚構を上手く作品に融け込ませています。電脳コイルの世界は、我々が知る現実に相当する世界に対して、それとほぼ同じ世界を描く仮想現実の双方が存在していて、後者はメガネを通してしか見ることができません。しかし、この2つは、ほとんどの場合において、同一のものと見なされ、ドラマが進行します。見るものは混乱することがほとんどありませんし、そこで起きている出来事も把握できます。

 そして、たまに思いがけないところで「同じではない」ことが示される意外性が面白さを産んでいます。

触れない電脳ペット §

 電脳コイルの仮想空間は、あくまでメガネに投影された映像でしかありません。

 つまり手で触ることはできません。

 けして、現実と区別できないリアリティをもたらす何かとしては描かれません。

 この描写は秀逸です。

 仮想現実という技術のありようを、的確に反映しています。

 そして、的確な反映だからこそ、そこに面白さが産まれます。

 現実と同じではないギャップに、ドキドキが発生するのです。

 それは、「区別できない」ことをテーマにした過去の優れた作品群とは明らかに異質です。

 たとえば、映画マトリックスが技術をベースにした映画を模倣した夢想に過ぎないのに対して、電脳コイルは技術をベースにした作品そのものです。

日常生活・生きている人間達 §

 それだけの技術的説得力がありながら、日常生活や生きている人間達の描写も非常に優れています。

 見事としか言いようがありません。

 特に、腰をぎっくりやったメガばあが、自分の代理をさせようとヤサコの幼い妹に攻撃兵器を与えると、面白がって撃ちまくる描写は秀逸ですね。メガばあの期待は空しく、子供は自分の望むままに暴走していきます。

 大人の思い通りにならない子供……という的確な人間のドラマがそこにはあります。

ラーゼフォン15話 §

 電脳コイルの磯光雄監督の、実質的な監督デビュー作とされるのがラーゼフォン15話だそうです。(録画データをHDDからサルベージしてまた見ました)

 ええ、もちろん覚えています。

 このエピソードは、ラーゼフォンの中でも特に印象深い作品でした。

 その時の感想が「本当の意味での名作アニメになると言うこと」に残っていました。

 以下、要点を引用しておきます。

 今回のAパートは、日曜午後7時半に名作アニメとして放送しても通る、というよりも、これだけの作品が作れれば、未だに日曜午後7時半は名作アニメの指定席だったでしょう。

 更に、Bパートも含めて見れば、本質的に、単に原作が有名であるというだけの意味しか持たない「名作アニメ」ではなく、名作と呼ぶに値するアニメだと思います。

 これでも、ラーゼフォンは高く評価しているつもりでしたが、まさかこれだけのものを見られるとは思ってもいませんでした。おそらく、ラーゼフォンという作品自身が、まだ成長過程にあって、「ラーゼフォンの水準」そのものが常に塗り替えられつつあるのだと思います。

 実に嬉しい、心地よい戦慄を感じさせていただきました。

 「実に嬉しい、心地よい戦慄」という言葉が、このエピソードの凄味を表していますね。

 ちなみに、あまり具体的な中身に踏み込んでいませんが、このエピソードで特に印象的なことは2つあります。

 1つは、Aパートでは温厚な執事に見えた老人が、Bパートでは銃を持った戦闘部隊を指揮しているという心地よい裏切り。

 もう1つは、ヒロインの性格の悪さと、それに釣り合わない(しかし年齢相応の)子供っぽさです。

 それとは別に、厳しい体罰のある強制的な教育と、それなりの精神的なゆとりのある生活が同居していることも、見ていて飽きないところですね。

 映像的な魅力も大きいし、内容的な魅力も大です。

 こういうトータルのバランスに優れたアニメ作家はあまり多くはないような気がします。たとえて言えば、宮崎駿に近いタイプかもしれません。

というわけで…… §

 あのラーゼフォン15話を実質的に監督した人物が作ったのが電脳コイルだ……というのなら納得します。

 磯光雄監督の名はしっかりと心に刻んでおきましょう。

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