本当に凄いものを見た……と思える機会はそれほど多くありません。
しかし、ロミオ×ジュリエットの「第16幕 ひとり~いとしくて~」は本当に凄いと思わされました。
まず、この作品は全くの恋愛ドラマそのものです。
その結果として、当然のように三角関係を扱います。
より正確には、ロミオとジュリエットという主役に対する横恋慕の相手として、ハーマイオニーというロミオの婚約者が出てきます。
さて、問題はこのハーマイオニーです。
当初、このハーマイオニーは、政略結婚の道具として存在します。それゆえに、自力で運命を切り開く強さも持ちません。そのようなものは、命じられた相手と結婚する「道具」としては無い方が良いものでしょう。
それゆえに、彼女は当初、何がどうなっているのか理解しておらず、ジュリエットと向かい合ってそこに純な愛が存在すると知った後で、ジュリエットを憎悪するようになります。
そして、今回はロミオのいる鉱山が事故だと知り、ジュリエットがそこにいるという「可能性」を示唆されると、一人で暴走して安否を確かめに行きます。
ここで、ハーマイオニーはよくある「悪女」そのものになります。悪女とは、Vガンダムのカテジナが典型的な例と言えます。勝手な思い込みによって、誰にとっても好ましい結果をもたらさない行動を、強硬に続けるタイプです。
では、ここでこのような悪女には、悪女をやめる出口が存在するのでしょうか?
「ある」と主張する作品には、あまり出会ったことがないような気がします。
しかし、この作品はそれが「ある」と主張しました。
ハーマイオニーは、ジュリエットがロミオの身近にいる存在だと信じ、自分が立ち後れた落伍者だと思っていたのでしょう。だから、強硬な態度を取らねばならなかったのです。
しかし、ジュリエットが、ロミオは無事であるという消息を知らず、それを知って激しく喜ぶ状況を見て、ハッと我に返ってしまうのです。
ここで、ハーマイオニーが思った状況とは異なり、ハーマイオニーはけして落伍者ではなく、それどころかジュリエットよりも多くの重要な情報を把握していたことに気付くのです。
その結果として、自分が焦る必要はなかったと気づき、我に返るのです。
冷静さと強さを得たハーマイオニーは、それによって恋敵のジュリエットに対する尊敬の念と、しかし負けないという本当の決意を得たのでしょう。敬意を持って勝負を決する……ということです。
それは、この相手には負けるかも知れない……という可能性を受容した上で、それに対して敬意を払うようになったことを意味します。
これは、人間としてハーマイオニーが1段階成長したことを意味します。
全てが思い通りにならないことを認めた上で、それでも投げ出さず暴走もせず、それに向き合うことが可能になったわけですから。
それこそが、真の心の強さです。
こういう心のドラマを描ける……というのは本当に素晴らしいですね。