うーん。
これは凄い。
こんな作品が、超メジャー誌である少年ジャンプに掲載されるというのも凄い話だし、それを受け止めて「面白い」と思える漫画読みの層の厚みも凄い。
作品の基本骨格は、全く異質のルールが支配する異世界ファンタジーだろうと思います。
ただし、その異世界が「江戸時代の武家社会」という点が特徴的です。
つまり、明らかフィクションを内包しつつ基本は歴然とした異質な過去であるという点です。
現代の常識が通用しない過去は、十分にファンタジー異世界になります。
それと同時に、過去の現実であるという事実から、その異世界が持つ多様性、奔放性、広がりの大きさ、小説よりも奇なりな事実に裏打ちされた突飛な出来事の数々……が空想による異世界を遙かに超えた充実度で迫ってきています。
そして、逆説的にそこに描き出されたものは、現代にも相通じる「社会」そのものです。
いわゆる「萌え」系のオタク向け作品が「社会」の存在感を徹底的に希薄化したファンタジーを描くのと正反対に、この作品は主人公を抑圧する濃厚な「社会」を描きます。
このような「社会」を描く作品として、他に「銀魂」があると思います。しかし、銀魂は決定的に敗北した者達がそれでもしぶとく生きる敗者の物語を描くの対して、サムライうさぎはまだ15歳の少年を主人公に据えることにより、もっと純真に夢や理想を持って社会に立ち向かう作品として構成されます。
もちろん、主人公は既に傷だらけであり、彼の妻となった少女は文字通り傷ものです。
それでも、まだ何か純粋なるものを信じられるのが、15歳という年齢でしょう。14歳ではまだ夢ばかりが先に立ち、16際では既に汚い大人の世界に片足を踏み込んでしまうから、たぶん15歳はこれが成立する微妙な年齢なのでしょう。
その純粋さを持って、汚い現実、大人の社会に風穴を開けようとする作品であるからこそ、この作品は魅力があると思います。
いや本当に。
嘘をつかない作品 §
なぜ面白いのか……という本質的な理由は、「重要なところで嘘をついていないから」という特徴があると思います。もちろん、作品には「嘘」も入っています。しかし、本質的なところでは嘘をついていないと思います。
昔、もののけ姫という映画がなぜそれほど若者の心を捉えるのか……という本で、この映画は嘘をついていないから……(逆に言えば、大人は嘘つきばかり)という意見を見たことがあるような気がしますが、サムライうさぎもそれに近い感じを受けます。大人がどれほど綺麗事を言ったところで、現実の世界がその通りに動いていないのは明らかです。
その点で、内職をしてまで体面を保たねばならない武士の生活や、ある種のブランド商売となっている剣術道場の実態など、良い感じで「綺麗事」をぶち破って本質に踏み込んで描いている感じがあります。
そして、そのような「現実」を前にひねくれることなく、虚無に陥ることなく、前向きに立ち向かっていく作品は気持ち良い「希望」そのものです。
