2009年10月27日
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奉仕系と支配系で解釈するオタク論・なぜ悪党のムスカが大人気になれるのか

Written By: トーノZERO連絡先

 簡単なアイデアのメモです。

 おたく/オタク文化が似て非なる別物に変化してしまった決定的なターニングポイントを明確に浮かび上がらせる1つの方策としてのアイデアです。

 以下は単なるメモであり、正しいと主張するものではありません。読んでそのまま信じてはいけません。

定義 §

 男の視点から見た「女」の扱いに関して言えば、そこには決定的に対立する2つの方法論があるようです。男から見て女を格上に位置づけるものを奉仕系、格下に位置づけるものが支配系と呼ぶことにします。

奉仕系と支配系の相違 §

奉仕系支配系
選択権男は女を選べない (交換不可能)男は女を選べる (交換可能)
対象人数女は1人女は複数
与奪男は女に対して与える女は男に与える
所有権男と女に所有関係はない男が女を所有する
権利男と女に権利関係はない男は女に対する権利を持つ

初期宮崎アニメに見る奉仕系と支配系 §

 たとえば、カリオストロの城では、ルパンにも観客にも女を選ぶ権利は存在しません。ヒロインはクラリス一択です。ルパンは一方的にクラリスを解放して去っていきます。両者には主従関係も何もなく、権利関係もありません。

 一方で、悪役であるカリオストロ公爵はクラリスを道具と見なしていて、明らかに「女を選べる立場」です。クラリスによって遺産を与えられる権利を得るために、クラリスを所有しようと画策します。

 従って、ここで奉仕系が善であり、支配系とは善によって打破されるべき悪となります。

 未来少年コナンでも同様のパターンが繰り返されます。

 女が主役となるナウシカ(映画版)になると構造がやや変化します。善を担うナウシカと悪を担うクシャナがどちらも女となるためです。しかし、風の谷の男達はナウシカに対して奉仕し、トルメキアの男達はクシャナに対して奉仕するという形で、奉仕系のパターンが二重に描かれます。更に言えば、明らかな支配系の文化を示すペジテの男達は、ナウシカを逃がすという女達の行動によって、支配が茶番であることを露呈してしまいます。

 カリオストロの城や未来少年コナンは初期のおたく文化の教祖、規範的な作品として後半に支持されたことから考えて、初期おたく文化の基本は奉仕系であり、支配系は悪として打倒されるべき存在と認識された可能性が高いと考えられます。

バニーガールとメイド §

 初期のおたく/オタク文化にあって人気があったコスチュームはバニーガールです。そのことは、たとえばDAICON IVオープニングアニメーションなどを見ると分かります。しかし、現在もっとも人気があるのはメイドとされます。

 バニーガールは基本的に店に属する存在であり、基本的に支配の対象になりません。客としてバニーガールに様々な奉仕を行うことは可能ですが、基本的に見返りはありません。

 一方、メイドは家に属する存在であり、雇用主は雇用されたメイドに対して支配権を持ちます。

 つまり、バニーガールとは奉仕系文化の上に存在する流行であり、メイドとは支配系文化の上に存在する流行だと考えられます。

広義のオタク文化と狭義のオタク文化 §

 美少女がカタログ化され、自由に選べる作品群が多く存在する現在、オタク文化の主流は支配系になったように見えます。しかし、実際に広範囲に見てみると、アニメやゲームの世界では依然として奉仕系の存在感は大きく存在します。

  • 人気アニメのNARUTOにおいて、主人公ナルトは、自分よりもサスケが好きだと知っていながらサクラを助ける。ナルトはサクラ以外の女を選べないし、見返りがないと分かっていても奉仕を行い、彼の一側面は明らかに奉仕系としての資質を持つ
  • 「困っている女性を助けるのは当然のことだよ。英国紳士としてはね」というレイトン教授は明らかに奉仕系
  • 「ミラクル☆トレイン~大江戸線へようこそ~」は擬人化された美少年の「駅」達が乗ってきた困っている女性を助けるが、「駅」達はそのときに乗っている特定の1人女性にのみ集中し、女(や男)を選ぶ権利を持たない。これも明らかに奉仕系
  • 崖の上のポニョでは、何の見返りもないのにポニョを守ってあげると約束する宗介はやはり奉仕系
  • 銀魂において、主人公坂田銀時は個々のエピソードのヒロインのために、見返りが無くとも身体を(場合によっては財布を)差し出す。これも奉仕系
  • クロスゲームにおいて、死んだヒロインが見た夢を実現するために野球を行う男達も奉仕系の一種 (死んでいる以上100%見返りはあり得ない)

 従って、支配系がオタク文化において「支配的になった」とは言えません。

 しかし、たとえばアニメでは以下のような傾向は見られるように見受けられます。

  • 深夜やUHFは支配系の割合が高い
  • 土日の午前中や18~20時などは奉仕系の割合が高い

 これは以下のように言い換えられるかもしれません。

  • 少数派のコアなオタク層は支配系を支持する (狭義のオタク文化)
  • 多数派のライトなオタク層は奉仕系を支持する (広義のオタク文化)

 これは、広義のオタク文化と狭義のオタク文化が同時並列に存在し、棲み分けていると解釈することもできます。

 (ここで、広義のオタク文化はもはや一般文化そのものであるという考えもあり得ますが、便宜上広義のオタク文化という言葉を使って話を進めます)

問題のまとめ §

 ここで問題となるのは以下の点です。

  • なぜ2つに分化したのか
  • いつ2つに分化したのか

タキシード仮面の憂鬱 §

 美少女戦士セーラームーンという作品は、基本的に奉仕系として始まったと言えます。セーラームーンが変身すると勝手に変身して駆けつけてしまうタキシード仮面は、明らかに奉仕系の存在です。しかし、セーラー戦士に人数が増えた後、男のメンバーは増えないために、多数のセーラー服美少女に囲まれるという状況が起こり、いかにも「女を選べる」かのようなムードが発生してしまいます。

 実際のタキシード仮面はセーラームーンだけを愛の対象とする立場であり、他のセーラー戦士を選ぶという選択肢はあり得ません。

 しかし、それが可能であるかのようなムードが発生してしまいます。

 ここで、限りなく奉仕系から支配系への接近が発生します。

※ この後、更に新世紀エヴァンゲリオンにおいて、奉仕もしない……という新しい男性主人公像が提示され、奉仕系から離脱する準備が行われた、というアイデアもあり得ますが、ここでは割愛します。

To Heartアニメ版のハーレム化 §

 複数ヒロインを持つ美少女ゲームは、実際にはハーレム型の作品ではないことが多いと言えます。なぜなら、奉仕と努力を重ねて特定のヒロインと結ばれるというシナリオが複数詰め込まれた形態が多く、特定の1つのシナリオの中にハーレム状態が発生する可能性はそれほど多くはないと考えられるからです。たとえば、有名なTo Heartは複数のヒロインがいても内容的には奉仕系であると言えます。

 しかし、それをアニメ化する場合には別の状況が発生しうるのです。人気のあるヒロイン達を全て登場させるためには、1人の男性主人公が1本のシナリオで全てのヒロインと絡ませねばなりません。また、アニメの場合、視聴者は何の努力も行うことなく主人公とヒロインの接近を見ることができます。この状況下で、主人公ないし視聴者は、「ヒロイン達をカタログ的に眺めて選び取る」という権利を手に入れてしまいます。従って、これは支配系です。

 To Heartは人気作であり、ゲームもアニメも多くのオタクによってプレイされた/視聴されたことから影響力も大きく、これが1つのターニングポイントではなかったか、と考えられます。

支配系の問題 §

 支配系は女性の人格性を否定することにもつながる危うさがあります。女を選べる、という発想そのものが女性の冒涜にもなりかねません。実際、今時のオタクが持つキモさの原因の1つは、支配系が持つこのような危うさにあるのでしょう。

 これに対して、奉仕系とは女性の価値を高く評価して尊重ことを前提とする立場です。これもやりすぎるとキモいという印象を持たれる可能性があり得ますが、仮にそうなったとしても支配系とは全く別の理由によります。

 つまり、支配系とは、奉仕系から見た場合自らのアイデンティティを全否定するような存在として見える可能性があり、逆に奉仕系は支配系を悪と見なすがゆえに支配系からは極めて深いな存在として見える可能性があり、両者は水と油のように分離する可能性があり得ます。

まとめ §

 「いつ2つに分化したのか」という点については「To Heartアニメ版」が決定的なターニングポイントになったと位置づけます。

 「なぜ2つに分化したのか」という点については「水と油だから」と位置づけられます。

であるから §

 映画天空の城ラピュタ公開後、かなり長期間主人公パズーはアニメージュのキャラクター人気投票に名前が出続けていたと思います。

 しかし、最近ネット上で名前をよく見るキャラクターは悪役のムスカです。

 パズーは助ける義務もないのに身体を張ってシータを助ける奉仕系ですが、シータを支配しようとするムスカは支配系です。

 この点は、ネット上の言説を主要に担う者達は少数派のコアなオタク層であると考えればすっきりと解釈できます。彼らの主要な文化は支配系であり、ムスカは一種の理想的な支配系キャラクターです。

 また同時に、彼らの文化が狭義のオタク文化でしかない以上、一般論としてムスカの人気はそれほど高くないだろう(悪役として嫌われる可能性の方が高いだろう)、ということも予測できます。

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