いやー。
今更ヤマトネタを見るとは。
しかもリアルタイムで。
ハチワンダイバー15巻(れっきとした2010年5月19日発売の新刊コミック、新装版などではない)151ページより
- 戦争の兵器に詳しくないけど… 戦争中 日本に… 大きな大きな世界一大きな 宇宙に飛び立つほどの 戦艦があったことくらいは知っているわ (強調筆者)
いや、ここでネタにされているのはあくまで戦艦大和であり、しかも描かれているのは大改装前の副砲が四基ある状態です。ネタは「特攻」ですが、沖縄に出撃したときの大量に対空兵器を抱えた姿ではなく、極めてシンプルなおそらく竣工当時の姿です。まあ、ごてごて細かく描くようなコミックではないので、それはそれで構いませんが。あくまで、ミリオタのドイツ人が将棋の駒をティーガーなどに見立てて攻めてくる展開なので、「大和」で対抗する展開は納得が行きます。
納得は行きますが。
「宇宙に飛び立つほどの」という表現はもうその世界からは飛んでいます。
つまり、「大和ネタ」の辺境に、既に「ヤマトネタ」が組み込まれているようです。大和ぐらいは知っている無知な日本人の無知さを示す指標として「ヤマト」がある……のかも。まあ、そのあたりは無知でノーマルとも言えますが。
逆に言えば、「無知さを示す知識」としてヤマトが知られているという描写も凄いものがありますね。ヤマトの存在感おそるべし。
もうちょっと深入りしよう §
実は、作者の柴田ヨクサル先生という人物は、安彦良和先生とかなり縁があるらしいのです。実際、ハチワンでも安彦良和先生のメイド・イラストのために将棋で勝負するという話があるぐらいです。(そのほかにもいろいろ関係があるらしいが、詳しくは知らない)
……という点を起点に考えると、実は「ここでヤマトネタ」という理由が見えてきます。
世間一般では、安彦良和先生といえば「ガ○ダム」の人であり、オリジンでガ○ダムエースの看板を支える大先生かもしれませんが、もちろん私から見れば違います。
はい、もちろんヤマトのスタッフリストで名前を見かけたその人です。
つまり、安彦良和先生へのリスペクトが限界を突破すると、「ガ○ダム」を超えて「ヤマト」に行ってしまうのはある意味で当然ということですね。
(それ以上更に踏み込むとクムクムとか。そう言われると、なるぞうくんとかの可愛さに一脈通じるかもしれない)
オマケ §
「ってわけで、愕然としたことにヤマトネタに回帰してしまった」
「予想もしなかった展開だね」
「だいたい、この話はだな。そもそも将棋漫画であり、敵はミリオタのドイツ人であり、ティーガーだとかメッサーシュミットだとか、そういうキーワードが飛び交う話なんだよ」
「うんうん」
「なのに、いきなり宇宙に飛び立つほどの戦艦って話になっちゃう」
「よくやるね」
「やり過ぎだ。非常識と言ってもいいだろう」
「じゃあ、ハチワンはダメなのかい?」
「いや、逆だ。常識を壊してこそのハチワンだろう」
「というと?」
「ゲストヒロインのちっちがばばあで、メインヒロインも山ほど食事を食べてお腹を膨らませている、なんて爽快なかっ飛ばし方が他にあるかい?」
「メイド服を着て可愛いはずのヒロインが、将棋が強くお腹を膨らませているなんて、もしかしてオタクの幻想を破壊してないか?」
「おいら、オタクじゃないからそんな幻想持ってないしね」
「それで安彦良和先生なんだけど」
「うん、いろいろ意見はあるが、それほど詳しいわけではないのでパスだ」
「しかし、ヤマトに関して何か言ってくれよ」
「基本的には、ヤマトという作品を下らないと思いつつ仕事だからこなしていた左翼系の類型の一人ではないか、という気がする」
「おっと」
「更に、ガ○ダムでメジャーになってしまったので、重要度を見誤っていたかもしれない」
「というと?」
「ヤマトではあくまで仕事としてコンテを切っているだけで、作品を左右するような大きな関与はしていないようだ。だから、作品の流れに中にある対立軸は、海軍系と陸軍系であり、右翼系と左翼系ではないように最近では思えている」
「なるほど。むしろ左翼系かな、とも思える安彦良和先生がむしろ冷静に仕事と割り切ってコンテを切れるのは、実は対立構造に巻き込まれていないからか」
「安彦良和先生も、その後で単純に左翼系に割り切れないような展開もあるらしいが、実際にどうかは知らない。何しろ本人に会ったこともないからね」
「まあそうだね。人の話はあてにならないからね」
「本人の話ですらあてにならないぞ。だいたい、本人に話を聞きにいくよりも、実際のフィルムから解釈を抽出しようという試みはそういうことなんだから」
「話がずれてきたな。話をハチワンに戻そうか」
「うん」
「なぜそれを読んでいるの?」
「メイド服の女が描いてあるのに将棋漫画ということで、1巻から買い始めた。それだけ」
「じゃあ、狙って買ったわけではないのだね?」
「うん。エアマスターの著者だと知ったのは後のことだ」
「エアマスターは知ってるの?」
「アニメで見た。坂本ジュリエッタとか名前も覚えてるぞ」
「良かったの?」
「うん。一応、女の子が何人も出てきてはいるのだが、実は主人公があまり可愛くないでかすぎる女というのが良かった」
「そこが良かったのかい」
「そうだよ。癖のない主人公のアニメなんか見るか」
「そうか、だから癖のある古代君が主人公のヤマトも見るのか」
「そうさ。癖のない女の子が何十人並ぼうと、癖のある古代君1人に勝てるものか。そもそも印象に残らない」
「そういう意味で、ハチワンも同じだね」
「うん。主人公に癖がありすぎる。癖があまりないヒカ碁の主人公とはそこが違う気がするな。ヒカ碁だとやはり印象に残るのは癖のあるアキラ君になってしまうしね」
「そうか」
「そもそも、メイド服で男性客を釣っているような漫画で、堂々とボーイズラブなんていうネタをやるのが癖ありすぎ」
「そ、それは……。何かずれてるね」
「うん。そのずれ具合がいいんだよ」
「そうか。そういう意味でここにヤマトネタが入ることもいい具合にずれているんだ」
「そうだ。ここはあくまで第2次大戦のミリタリーネタを貫徹すべき場面なのに、ヤマトネタが入るからいいんだ」
「ははは、屈折してるね」
「その屈折を的確に描く作品は多くないということさ」
