「復活編主題歌はALFEEだ」
「うん」
「本来のテーマソングも歌っている。もう存在しないイスカンダルへハルバル父さん怖いけど。じゃなくて、はるばる望んでいる。しかし、発進のBGMとシームレスにつながっていていい感じだ」
「それで?」
「でもさ。ちょっとやけくそに絶叫してるという印象も受ける。少しかすれ気味で無理がある感じだ」
「だからどうしたの?」
「やはり、どう歌うべきか相当西崎さんとやりあって苦闘したのではないか、という気がするな」
「というと?」
「苦闘して何回も歌って激論して、最後にやっとへとへとになりながらOKテイクを録音できたという感じかな? 声を聞いていると、どうもそういうドラマがバックにありそうな気がする。まあ気がするだけで実際のところは知らないから本気にするな」
「音楽ドラマもあるってことだね」
「たとえばさ。復活編の音楽監督は大友直人で、選定理由としてヤマトの現場を知っている人が彼しかいない、ということらしいけど、これも素直に受け取るべきではないと思うな」
「というと?」
「いくつかの曲を作曲してパイプオルガンも弾いた宮川彬良だってまだ活躍中だ。大友直人しか候補がいなかったとも思えない」
「ではそこにどういうドラマがあり得ると思うんだい?」
「さあね。下品に考えるなら、松本先生がコンサートのゲストに来るような宮川彬良に任せたくない、と西崎さんが思ったという解釈もあり得ると思うが、そういう単純な話ではないと思う」
「というと?」
「復活編の音楽の特徴は、既存のクラシック曲の多用だが、それが演出の意図的な用法だとすると実はクラシック世界の正統な指揮者こそが適切な音楽監督となる」
「ということは?」
「だから、オーケストラと言いつつビッグバンドである交響組曲ヤマト系ではなく、純然たるオーケストラ音楽である交響曲ヤマトから人材を探す必要があり、そういう観点によるフィルタリングを経た後で音楽を任せられる候補が大友直人しか残らなかったのではないだろうか」
「そうか。前段階にもう1つフィルタがあるってことだね」
「この世界観において、宮川泰や羽田健太郎は既に故人であり、過去の巨匠達と基本的に同列なんだ」
「そうか。とすれば、主役は既に作曲家ではなく、演奏家側にあるわけだね」
「そして、演奏家達のトップが指揮者である大友直人ということになる」
ifの世界 §
「でもさ。もしも復活編がそういう方向性の音楽を目指さないで新しい音楽を志向したらどうなるだろう?」
「意外と、イナズマイレブンの音楽をやっている光田康典とか、チョイスされるのではないかという気がするな」
「誰それ?」
「クロノ・トリガー、クロノ・クロスの、と言った方が分かりやすいかな。情感豊かないい音楽を作曲できるという意味では今時希有な人材かもしれない。まあ音楽全般を良く知っているわけではないから、あくあで個人的な印象だけど」
「でも、実際はそういう方向に行かなかった」
「うん。むしろ、新規に創作していく方向性を持っていなかった」
「それは正しい方向性なんだろうか?」
「結論から言えば、間違っていないと思う。いや、もっと正確に言おう。新しい才能を採用していない復活編も、新しい才能を採用したイナズマイレブンも、どちらも間違っていない」
「どういう意味?」
「最初に復活編の映画を見たときは事情を知らないから耳慣れない音楽を新曲だと思ったわけだ。しかし、クラシックの既存曲だった。区別が付かないとしたら、あえて新曲を作曲する意味があるかい?」
「そ、それは……」
「しかし、音楽は金を払った後に聴かせる復活編の世界と違って、イナズマイレブンのような世界になると話が違ってくる。テレビアニメをみてから客は金を払ってゲームを買うのだ。アピールのために今の客に合わせる力は生者にしかない」
「なるほどね。モデルが違うのか」