「ある日、本屋に行ったらネギま!31巻とフェアリーテイル22巻が並んでいたわけだな」
「それで?」
「ほぼ同等の条件で読み比べができると思って、2大コミック南海の大決闘と行こうと思った」
「なぜ南海?」
「お父さんかお母さんにでも聞いてくれ」
「それじゃ、まずはそれぞれの感想を聞かせてくれよ」
フェアリーテイル22巻 §
「やはり真島ヒロは上手いね」
「どのあたりが?」
「けっこうグッと来る1枚絵も多い。扉絵に酔えるのはいいことだ」
「絵だけ?」
「いや、内容もいいぞ。相変わらずルーシィの色気は否定され続けているし、肝心のカギを破壊してしまってその後の対策は良くできていた。なるほどね、そういう方法なのかという感じだ。あのキャラの特技を生かしている」
「それだけ?」
「毅然とした態度で歩いて行って石を投げられてしまうウェンディもいいよね」
「ということはかなり良かったわけだね」
「うん。満足度は高い」
ネギま!31巻 §
「次はネギまだけど。これはどう?」
「まあ半ば予想されていたことではあるけれど、もう絵に力がない。構成も安直だ。作品としてはもう終わってるな。あまり情熱も感じられない。ネギま!は29巻で終わったと思っていいだろう」
「もうちょっと詳しい話を頼むよ」
「オタク向けの萌え漫画としてはちょうど良い熱さなんだろう。熱いと飲めないからね」
「じゃあ、もはや君は客ではないということ?」
「うん。単純に言えばそういうことだ」
「でもさ。熱いのがお好きなファンもけっこういそうじゃない」
「だから、ファンのかなりの部分はもう脱落するかもしれないが、声の大きな熱心な支援者がオタクである以上、彼らを尊重するのならそういうことだ」
「なぜそうなるの?」
「理由はいくつかあるが、ネタをバラしすぎたな。あと、強さがインフレしすぎている」
「インフレ?」
「あれだけ強かったラカンがあっさり退場してクラスメート達が1人も欠けないで戦っているというのは、あまりに不自然だろう?」
「それにも関わらずなぜ続くの?」
「映画化が決まっているからだろう。それまでは終われない、ということだろう。営業上の理由から」
「なるほど」
「それまで人気を維持するのは難しいから、忠誠度の高いオタクファンに絞って続けようというのかもしれないが、もちろんそれで映画は成功しない」
「成功しないって断言しちゃってるよ」
「まあ、これは何を持って成功と称するかによるけどね」
「映画館が人で溢れたら成功? 採算が取れたら成功?」
「実は、どちらも難しくないんだ」
「というと?」
「上映する劇場数を減らせば簡単に映画館は一杯にできる。少数の忠誠心の高いファン層さえ囲い込めば、予算を減らしても売れるから採算が取れる」
「じゃあ、何が成功なんだろう?」
「そうだな。府中の劇場でも上映され、ぶらっと来た一見の客が入っていたら成功と見なそうか。ジブリとは言わないが、クレヨンしんちゃん映画の水準だ」
「でも、それはむちゃくちゃハードルが高いよ。絶対無理だろ」
「だから最初から言ってる。企画そのものに無理がある」
対決の行方 §
「では、そろそろジャッジの結論を言ってもらおうか。とっても、もう結論は言ってしまったようなものだけどね」
「そう思うだろ?」
「え? 違うの? フェアリーテイルの勝ちじゃないの?」
「じゃあ、もうちょっとだけ話を進めようか」
「うん」
「実は、ファンタジー世界の存在意義はほとんど無いと思っている」
「おっと。爆弾発言」
「より正確に言い直そう。ファンタジー世界というのは、本来は別の現実であり、感情移入するのが難しい。現実とは違うからね。だから、それなりに知識のあるマニアの世界ということができる。例外は、アリス・イン・ワンダーランドのような世界で、あれは世界観を多くの人が知っているという意味で特異な例外だ。あれは一般性がある」
「なるほど」
「だから、未来や過去に現実を延長した作品はいいが、全くの架空世界はあまり意味がない。感情移入できないからね」
「でも、ドラクエとかFFとか、みんな架空世界だよ」
「それはゲームシステムの都合だ。現実は再現できないし、しても面白くないからね」
「でもさ。ああいう世界観のコミックとか小説も多いじゃない」
「その方が作品を作りやすいからだ」
「というと?」
「社会経験の不足を、頭で考えた設定で埋め合わせることができるからだ。あるいは頭で考えた設定が現実と食い違っても、そういう設定の異世界だと言い張れるから有利なのだ」
「おっと。じゃあ、現実世界を扱った作品の方が作品として優位ということ?」
「うん。そう思う。その方が感情移入しやすいしね。難しい設定を理解する必要もない」
「そうすると、フェアリーテイルとネギま!の対決というのはどうなるの?」
「どっちも異世界ものだ」
「つまり、両方ともダメということになるの?」
「ネギまは、実は当初は舞台が現実世界であり、それほど強い異世界ものではなかった」
「そうだね。舞台の学園は埼玉という設定だっけ?」
「その学園がホームグラウンドでそこに帰ることが前提なら、まだしも夏休みの遠足として異世界はかろうじて許容範囲だ」
「でも、すっかり作品も異世界に染まってしまったね」
「うん。だから、構成も安直になるわけだ。安直でも成立するからね。人間に獣耳があっても、人間が消えても、そういう設定の世界ですって言えばいいんだ」
「なるほど。でもさ。そうすると、勝負の結果はどうなるの?」
「ネギま!不戦敗。フェアリーテイルは高得点だがレギュレーション違反が発覚。よって勝者は月光条例10巻」
「ええ? 月光条例って、それどっから出てきたの?」
「ちょっと後で本屋に並んでいたものだ。おとぎ話のキャラクターが出てくるが基本的に現実世界ものであり、異世界ものでない。みんなが知っているキャラクターで話も分かりやすい。日本1の桃太郎に勝てるとおもうてか、と言われて、シンデレラと赤ずきんを連れた主人公が言うんだよ」
「なんて」
「こっちは世界1だ」
「とても分かりやすくて燃える展開だね」
「これはもう。敵がみんなが知ってる桃太郎だから成立する話だ。これは9巻だけど。10巻でもシンデレラと赤ずきんちゃんラーメン屋でバイトしながら大活躍」
「分かった分かった。ぜんぜん勝負としてルール違反だけどもうそれでいいよ」