「アオイホノオは今月も凄いなあ」
「どのへんが?」
「シルエットのアニメ特撮メカ勢揃い。ヤマトはもちろんいる。他に大空魔竜とか」
「ガイキング?」
「ガイキングじゃなくて大空魔竜」
「ああ、そういうこと」
「他にガンダム、イデオン、サンダーバード1,2,3号、マイティ号、ウルトラホーク1号、ソロン号、たぶん地球防衛艦轟天、ビートル、ミレニアムファルコン、タイファイター、初代エンタープライズ、海底軍艦の轟天号、たぶんキングビアル、他はワカラン。しかも、吹き出しと顔に隠れている部分には他にもっと描かれていた可能性すらある」
「凄いね」
「凄い熱気だ。しかも最もでかいのはヤマト」
「なるほど、ヤマトファン感涙ものだね」
SFとアニメとヤマト §
「しかし、これは本題ではない」
「というと?」
「手塚治虫のサンダーマスクをかなり収録しているがそれも本題ではない」
「じゃあなに?」
「GAINAXの武田さんが出てくるが、彼が語る話は、古参のSFファンにはアニメをSFという奴はアホだと言われて悔しいと」
「じゃあ、何がSFなの?」
「小説SFだね」
「そりゃ、かなりの偏見だね。武田さんが怒るのも無理はない」
「でもね。古参SFファンの気持ちも良く分かるのだ」
「どういうこと?」
「うん。だからさ。おいらの右足はアニメにあるが、左足は小説SFにあったのだ。ずっと昔はね。今はそうでもないけど」
「じゃあ、アニメはSFなの? SFじゃないの?」
「その議論は既にやり尽くされている」
「というと?」
「もううろ覚えだが、実はアニメファンはSF大会から出て行けと怒ったのが手塚治虫。それから、アニメはSFじゃないって話をOUTだったかに書いて激論を巻き起こしたのが高千穂遙」
「なにそれ」
「アニメファンからすると、なにそれ、になるのだが、実はSFファン側からすれば当然のことでしかない」
「もうちょっと詳しく教えてくれよ」
「SFファンという人種の起点になっているのは、進駐軍が持ち込んだペーパーバッグの小説SFだ。その後、日本で開花したSFも小説というジャンルにほぼ限られる」
「どうしてだろう?」
「第1世代のSF作家の多くは、実はアニメのシナリオを書いていたが、SF作家に転向している。エイトマンの平井和正とかね」
「なぜ転向するの?」
「アニメが基本的につまらないからだ。たとえばスーパージェッターというアニメがある」
「うん。未来から来た少年が大活躍。流星号流星号」
「でもさ。未来から来るという設定を活用してドラマが作られていないという不満があったそうだ。凄いヒーローが凄い装備でギャングをやっつけるだけだって」
「ほんと?」
「詳しいことはよく知らないよ。でもマッハ15のスピードでアニメのシナリオから離れてSF作家になっていった人たちはいるようだ」
「なるほど。ってことは、小説SFを担った人たちに強いアニメ不信があったということだね」
「しかも、それは嘘とは言えない。SF巨編といいつつ、単に荒唐無稽でサイエンスのサの字もないロボが暴れるだけのアニメだったりすると、それぜんぜんSFちゃうやろと言いたくなる」
「なるほど」
「不信を招く事例なら他にいくらでもある。たとえば、キャプテンフューチャー」
「それがどうしたの?」
「非科学的だけど面白ければいいじゃん、というスペオペの代表作なのに、なぜか主役メカのコメット号が、アニメでは科学的考証の確かさで有名だった2001年宇宙の旅風。明らかに分かってない」
「そうか」
「あとレンズマン。CG黎明期の最先端ハイテク映画なんだけどさ。原作は古き良き時代の、とても古いタイプの作品なんだよ」
「やはりこれも、企画の建て方がずれているね」
「うん、ずれまくり」
「ということは、小説SF至上主義は正しいの?」
「ある意味で正しい」
「でもさ。小説SF至上主義と、アニメを見ている君は両立するの?」
「両立する。なぜなら、違うジャンルであり、違うお約束で支配された世界で、見せ場も違うからだ」
「それって頭を切り換えられるということ?」
「SFというのは、そもそも頭を切り換えるものなんだよ。非科学的なスペオペも、剣と魔法のヒロイックファンタジーも、科学的なハードSFも楽しめないとやっていけない。常に頭は切り替え可能でなければならない」
「なるほど」
「というところで最初に戻ろう」
「うん」
「アニメファンはなぜSF大会から出て行かなくてはならないのだろう?」
「なぜ?」
「SF大会というのは、歴史的に小説SFをベースにして構成されたものであり、アシモフ、クラーク、ハインラインが共通言語として存在する。そういう場だ」
「うん」
「そういう場に来て、アシモフ、クラーク、ハインラインは知らないアニメファンが、ガンダムを語ろうとしたらどうなると思う?」
「えーと、まず面白くイベントを盛り上げようとして準備したネタが全部すべるね」
「そうだ。あくまでSFファンが知っていると想定されたネタが準備されているが、それは通じない」
「それからどうなるんだろう?」
「実はガンダムを裏で仕掛けたのは、スタジオぬえらしい。そしてぬえはSF側だ」
「ってことは、どうなるの?」
「ガンダムの画期的なすばらしい要素は実はSF側ではありふれたガジェットに過ぎない。オニールのコロニーとかね」
「かなり温度差が出てくるね」
「しかも、前提すら違っている。アニメファンは、巨大ロボットが出てくればSFだと思っているが、SF側はそう思ってない。SFファンがロボットだと思っているのは、たとえば鋼鉄都市のR・ダニール・オリバー。等身大で人間そっくりだ。で、壮大なメカ戦などやらず犯罪捜査をする刑事の相棒になる」
「まるで違うね」
「SFファンから見れば、アニメファンは勘違いしたうざいガキにしか見えなかったとしても、何ら不思議ではないよ」
ヤマトは浮かぶ §
「じゃ、あ~る田中一郎はロボットという認識でいいのかな?」
「ロボットじゃないよ」
「あ・ん・ど・ろ・い・ど」
「うん。あれは鋼鉄都市というかアシモフのロボットものが元ネタにあるからいいだろう」
「じゃ、ヤマトはどうなるの?」
「ヤマトは実は凄く微妙なのだ」
「というと?」
「いくつかの点でSF的な内容を含むのだ。光速を超えないと1年以内に他の銀河に行けないとかね」
「なるほど」
「でもさ。さしたる理由もなくあり得ない非科学的な描写が続くアニメでもある」
「ははは。上と下がある宇宙だしね」
「でもそれはヤマトという作品の必然であって、恥じ入るようなものではない」
「うん」
「でも、SFとはまた違うポジションに立つことになる」
「なるほど。だからヤマトを基準にSFを語ることはできないわけか」
「でも、他のアニメに比べれはけっこうかすっている部分がある」
「だからかえって嫌われるのかな?」
「さあね」
オマケ §
「で、結局君は何者なんだい?」
「一介のヤマトファンである」
「SFファンじゃないの?」
「SFファンではないのである」
「アニメファンなの?」
「もうアニメファンはやめたのである。アニメブームの終焉宣言を勝手に出した後でね」
「でも、まだアニメ見てるね」
「多少は惰性で見てるけど、もう自慢できる水準ではない」
「でも、ヤマトファンであることは否定しないのね」
「ヤマトは不滅。不滅の宇宙戦艦ヤマト」
「それただのディスコアレンジ」
オマケ2 §
「そうだ。ついでに書いておこう」
「なに?」
「ディスコアレンジは出たときに周囲の評判が凄く悪かった」
「どんな風に?」
「あの感動的な音楽を台無しにして!」
「ははは。確かにムードが違う」
「これも頭の切り替えの問題の1つだ」
「ええっ? 関連しちゃうの?」
「だからディスコ用にアレンジするというのが、どういうことかを前提として理解して頭を切り換えねばならない。そのためのアレンジとしての善し悪しが語られねばならない」
「世の中に唯一の正解はなく、その場を正しく認識して頭を切り換えろってことだね」
「TPOに合わせるとか、空気を読むって言葉もあるけどね」
「確かに」
「そう思えばSFファンが異質なのではなく、アニメファンがガキだったとも言えるね」
「ははは。勘違いした闖入者でしかなかったわけね。そりゃ、でて行けと言われるわけだ。来る場所間違ってるよ、ここはコミケじゃないよって」
「うむ」
「でも、もう過去形なのね」
「過去形の回顧話をしているのであ~る。しかもいい加減になのであ~る」
「話題があ~るに戻った!」