2010年11月12日
川俣晶の縁側過去形 本の虫感想編total 1779 count

1Q84 BOOK 2, 村上 春樹, 新潮社

Written By: 川俣 晶連絡先

「今更なんだけどさ。1Q84の2冊目を読んだよ」

「それで?」

「なんとなーく分かってきたよ」

「なにが?」

「主に1970年代のSFにはニューウェーブという流行があってさ。J・G・バラードとかが代表選手だろうね」

「それが?」

「どう説明するといいのかな。1950年代のSFたとえばアシモフの銀河帝国シリーズとかは、理論整然として理屈で理解できるものだ。それに対して、理屈で割り切れないような精神的にぐちゃぐちゃの話だったと思う。上手い説明ではないけどね。でもつまらないわけではなかった。インパクトも強烈だった」

「それが流行っていたの?」

「そういう潮流はあったが、多数派ではなかったと思う。ちなみに、たぶん1980年前後のことだと思うけど、SF雑誌がたくさん出版された時期があった。SFマガジン、SFアドベンチャー、奇想天外、SF宝石だったかな。でもそれとは別にニューウェーブを扱うNWSFという雑誌もあった。あったけど、池袋の大きな本屋でしか見たことが無かった。思想的なインパクトはあっても多数派の支持はなかったのだろうと思う」

「そうか」

「あと、ハヤカワのSF文庫と、創元推理文庫のSFの他に、サンリオのSF文庫というのがあってそういうえぐいのがけっこう多かった気がした。今はもう無いけど」

「サンリオ!」

「ちょっとWikiPediaを見て昔をしのんでいるけどさ」

「うん」

「記憶にある範囲で言うと、トマス・M・ディッシュ『334』 (22-A)って持ってたな。うろ覚えの記憶で言うと、スラムみたいな世界観で、少年が少女に挿入して小便するようなえぐい描写もあったような気がする」

「ははは」

「あと、ウィリアム・S・バロウズ『ノヴァ急報』 (4-A)ってのも持ってたけど、これは読めなかったな。文章が凄すぎて。翻訳されて日本語で書いてあるのに、読み進めることができないんだよ。今なら読めるのかも知れないけど」

「バロウズって火星のプリンセス?」

「いや。それは別人。エドガー・ライス・バローズ」

「それで?」

「バラードはまだしも読みやすいってことが良く分かる」

「いや、そうななくて1Q84の話」

「1984年と言えば、そのブームの残り香がまだある時代だ。サンリオSF文庫もまだ存命だった時代だ」

「翻訳はワンテンポ遅れてくるわけだね」

「だからさ。この1Q84って小説は、実は2009年に出ているが2009年に出版されて2009年に読まれる新刊ではなく、1984年にいかにもありそうな小説でしかないんだよ」

「ほうほう」

「だからさ。基本的にデジャブなんだよ」

「遅れてやってきた過去というわけだね」

「だからさ。性的な虐待を描くって、いったいいつの話?ということにもなる」

「性的な虐待が問題視され、それを描くことがトレンドだった時代ということだね」

「よく知らないけど、カウンセラーによって存在しなかった虐待がねつ造されていたことが告発される前の時代の価値観だろうかね」

「でもさ。そういう事例もあったと言うだけで、性的な虐待はあり得るのだろう?」

「だから、2000年代的な価値観で言えば、その告発は事実ですか?という問いかけとセットになる。まあ、1980年代の話だから、そんな価値観はありませんというのならまあいいけどさ。そうすると今度は別の問題が出てくる」

「というと?」

「あらゆる描写がソフトタッチなんだ。本当に深い部分に踏み込むには物足りない」

「でも、ソフトだからベストセラーになれたんじゃない?」

「それも真だろうね。普段は小説を読まないけど、流行っているから読んでみた読者がこれはいいと言うためには、過剰な深入りは避けねばならない。嫌悪感を与えるからね。でも、ニューウェーブの読書体験を持っていると、この程度はままごとでしかない。それっぽいことを模倣した、ごっこ遊びの水準でしかない。水辺でちゃぷちゃぷ遊んでいる段階で、沖合の深みにはとうてい届かない」

問題は君だ §

「では質問するけど、ならば物足りない君はなぜ読んでいる?」

「単純だ。空気さなぎ、リトルピープル、2つの月等々といった設定にどういう決着を付ける気なのかが知りたい。一応文学として消費されている以上、一般読者が納得できる水準で納得できる結末が用意されねばならない。ではどういうオチを用意しているのだろう? それは読者を納得させるオチだろうか?」

「でもいいのかな。そういう読み方で。SFじゃなくて文学だろ?」

「用語としてパラレルワールドとかミクロの決死圏とか出てくる小説がSF的な側面を持つことはある意味で当然だろう。逆に1970年代以降のSF小説は文学的な特徴を取り込んでいくことになるから、完全に分離することはおそらくできない」

余談 §

「今時のトレンドは、たとえば京極夏彦に代表される『実在しないがそこにある妖怪』的なものだと思う」

「うん」

「そういう意味で、妖怪体験は基本的に共有されない」

「妖怪は個人が見えてしまうもの、ということだね」

「集団で見えてしまう場合もあるけどね。でも、相互に関係ない人が見てしまうことはあり得ない。前提に同じ知識があれば別だけど」

「うん」

「でもさ。相互に関係ない別の人から見えてしまう2つの月って何だろう?」

「さあ」

「あと以下は無自覚な中二病じゃないかな、という気もする」

  • 主人公が特別な資質を持つ特別な人間である
  • 兵器が平然と出てくる
  • 現実そっくりの異世界
  • 戦うのはヒロインの役目

「どういうこと?」

「世間から白い目で見られるオタク向け萌え作品を、もうちょっと上手くやってるだけってことだ」

「それは辛辣だね」

「これでも最大限褒めてるのだよ。オタクしか買わないラノベと違って、1Q84は立派な大人が買ってくれるのだからね。遙かに高い構成力や表現力はあるだろうさ。あと読者側の理解力もね」

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