2011年05月16日
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本当に怖い東電の話

Written By: 川俣 晶連絡先

「最近の東電を巡る批判を見ていると、かなり過剰に行きすぎ、という印象を持つ場合がある」

「東電は悪だろ? 福島の惨状を見れば悪だと分かるだろ? この状況で東電は何を言われても文句が言えないだろう?」

「いやいや。その考え方は間違ってる」

「どうして?」

「君は東電管内に住んでるんだろ?」

「うん」

「東電に電気料金は払ってるかい?」

「払ってるけど、それがどうしたんだ?」

「ならば、東電の電気が止まったら困るだろ?」

「まさか、東電が悪いことをしたから非難してるのに、その腹いせで電気を止められるってことかい? それこそ筋が通らないよ」

「そうじゃない。潜在的な停電リスクが上昇中だって事だ。みんなが面白おかしくやってる東電叩きのせいでね」

「停電は起こってないぞ。計画停電も回避の見込みだろ?」

「無計画停電の話をしているのだ」

「話を聞かせろよ」

いじめ問題 §

「現在の東電叩きを見ると、ほとんど『東電いじめ』であると感じるね」

「いじめ? でも筋が通らないことを言ってるわけじゃ無いぞ。東電はそれだけのことをしたんだから」

「まずその点で問題が1つある」

「なんだい?」

「いじめには、たいていの場合、表面的に筋が通った大義名分が存在する。筋が通っていることは、むしろいじめの典型的な類型なんだ」

「えっ? まさか!」

「ただし、その『筋が通っている』というのは表面的であり、たいていの場合意味をなさない」

「意味をなさないって、それじゃ意味が無いじゃん」

「自己正当化のための理屈だから、他人から見て正当であるかはこの際問題では無いからだ」

「東電叩きもそうだっていうのかい?」

「そうだ。こちらもけして電力に詳しいわけでは無いが、それにしてもこれはどこまで無知な素人の屁理屈なんだろう……と思われるような意見も散見される」

いじめの真相 §

「そもそも、なぜいじめが起こるんだろう? それは悪いことだろう?」

「実際には、いじめを起こしている人間はいない」

「えっ? でも日本じゃ、いじめはどこでもあるじゃん」

「だからさ。いじめる側は自己正当化の理屈を持ち、いじめではない何らかの正当な行為を行っていると考えて行動する。従って、ほとんど罪の意識は無い。というか、罪の意識を持たないために、大義名分を必要とする」

「でも、わざわざ大義名分を準備してまでいじめを行う理由なんだよ」

「たぶん、心が弱いからだ」

「えっ?」

「自分で自分を支える心の強さを持たないから、他人を虐げて支えようとする行為がいじめなんだろうと思う」

「なんだって?」

「組織がしばしばいじめ肯定側に立つのは、スケープゴート1人を犠牲にすることで、心が弱い大人数が救われれば組織が円滑に動くからだ」

「じゃ、いじめはあっていいわけ?」

「そうじゃない。スケープゴートは組織にとっては都合がいいけど、その人物も親兄弟からは期待してそこにいるんだ。その期待を組織絡みで踏みにじって良いという話は無い」

「なら、発覚すると謝るしか無いね」

「でもさ。たいていは謝らない」

「どうして?」

「彼らは正しいことをしているのであって、いじめではないと主張するからだ」

「いじめ行為だと証明されたら?」

「いじめられる側にも原因があると主張する」

「実際に原因があるケースも多いのでは無いの?」

「そうだ。いじめられる原因のあるケースも多いが、だからいじめて良いという理屈は成り立たない」

「いじめてくんがいたからといって、彼をいじめて良いという話では無いってことだね」

いじめの連鎖問題 §

「いじられた側が成長すると今度はいじめる側にまわるという現象が起きる。これも当たり前だ」

「どうして? いじめられる痛みを知っていれば、自分はいじめないのでは?」

「そうじゃない。いじめられる側もしばしば心の弱さを持つ。その弱さに対処する方法論としていじめしか知らないなら、他者をいじめて弱さをカバーしようとするだろう」

「ひでえ」

「しかし、そうそういつも都合良くいじめられてくれる相手がいるわけでは無い」

「そうだよな」

「反撃一発で酷い目に遭わされる可能性もあるのだ」

「いじめる側が常に強いわけでは無いわけだね」

「本気で抵抗してくる相手は、いじめる相手に適さない。代償が大きすぎるからね」

「そうか」

「そこで重要なのが、失敗した者の存在なんだ」

「えっ?」

「失敗した者は、既に失敗しているがゆえに、糾弾を受ける対象となる」

「うん。迷惑を掛けたのだからね」

「だから、言い返すことができない相手はいじめという行為をぶつけるのに最適なんだ」

「えっ?」

「だからさ。福島でやっちゃった東電は、まさにいじめに最適の対象なんだ。酷い結果を出した以上、そうそうきれい事で言い返すことはできないので、ひたすら叩ける。たぶん、叩いて爽快なんだろう。自分の心の弱さを他者を虐げて維持するタイプの人には最高のご馳走だろう」

「ちょっと待ってくれ。もしそうだとしても、東電をスケープゴートにして日本社会が円滑に動くのなら、それはそれでいいのではないか?」

「はははは。そんな都合良く行くものか」

「えっ?」

リスクの問題 §

「いてもいなくても大差ない人間を1人スケープゴートに仕立てていじめても確かに問題はそれほど起きない。自殺して消えても組織は動く。でも東電はそれと同じでは無い」

「なぜだい?」

「東電が自殺するってことは、東電管内の地域に電気が供給されなくなることを意味するからだ」

「えっ? まさか!」

「だって、東電職員が全員で『仕事しても叩かれるだけで馬鹿馬鹿しいから今日からもう全員で仕事辞めます』と言って仕事やめて家に帰っちゃったら発電所も変電所も止まるぞ」

「それは大げさだよ」

「まあ確かにそこまでは行かないだろう。さすがにそこまで行く前に止めようとする人は多いはずだ。しかし、それ以前の状況ならいくらでも起こりえるぞ」

「それ以前?」

「じゃあ思いつくままに列挙してみようか」

  • 電力料金が上がる
  • サービスが低下する
  • 停電する率が上がる
  • 停電から復帰するまでの時間が延びる
  • 燃料が調達できずに停電するケースも起きる
  • ピーク時の電力が確保できず停電するケースも起きる

「でもさ。政府は電力の安定供給と言ってるよ」

「口では何とでも言えるさ。実際に供給されるかは別問題だ」

「嘘だろ」

「書類上、確実に電力が行き渡る状況と、実際にそうなる状況は別物だ」

「どうして電力料金が上がるんだい?」

「補償金も払う必要があるだけで無く、みんなが東電を悪だ悪だというから、資金調達コストも上がる。しかし、電気料金を上げると言っても限界がある。上げすぎるとみんな関東から逃げちゃって、東電の減収になるからだ。ではどこにしわ寄せが来るのかといえば、有事の備えだ。故障に備えた冗長性を削ったり、故障発生時に待機している人数を減らすと言った対策があり得るね。部品のストックも減らされるかも知れない。実際、故障が起こるまで上手くコストを削減したように錯覚させられるしね」

「錯覚か」

「そうだ。錯覚だよ。そうなれば、施設の更新も思うようにできないし、メンテナンス要員も減らすしか無いから故障率も上がるだろう。設備の冗長性も理解されずにどんどん削られるかも知れない。更に資金調達が安定して安価に行えないようになると、燃料さえ十分に買えない可能性すら想定できる。書類上の発電能力と実際の発電能力が乖離していけば、乗り切れるはずのピーク時を乗り切れない事態もあり得る」

「でも、まだそういう停電の話は聞かないぞ」

「まだな。資金が潤沢な時代に構築した電力網が生きてるからな。問題はその過去の施設が老朽化していったときに起こるだろう。それが何年先は分からないけどな」

可哀想な東北の人を救え問題 §

「でもさ。可哀想な東北の人に補償することはやはり必要だろう? そのためには、東電がどうなってもやむを得ないだろう?」

「そこが詐欺的なトリックだ」

「えっ?」

「東電は補償金を払う必要があるというのなら、東電はその分の収入を稼ぐ必要がある。資産の切り売りなんて効果は一時的だからね。しかし、東電のサービスが低下して電力料金が大幅に値上がりしたら、みんな東電管内から逃げるに決まっている」

「でも東電の自業自得だろ?」

「よく考えろ。東電が大幅減収ということは、補償金の支払い能力も落ち込むことを意味するんだぞ」

「えっ?」

「口で払うべきだというのは正論だろうが、支払能力を奪いうこととワンセットで言っても説得力が無い」

「じゃあ、どうすればいいんだい?」

「東電管内に住んだり事業を行って、東電から電気を買うことはたとえ高く付いても価値ある素晴らしいことなのだ、という風潮を作って人も企業も出て行かないようにつなぎとめる必要がある」

「でも今の風潮は逆じゃん」

「だからさ。これは『いじめ』に似ていると感じるんだよ」

「えっ?」

「本当に、可哀想な東北の人に補償金が行って欲しいと思うなら、東電を叩いてる場合じゃない。それはむしろ、結果的に可哀想な東北の人をいたぶっているだけのことだ」

「それってまさか」

「だからさ。たいていの場合、東電叩きも自分の心の弱さを他者を犠牲にして保っているだけの行為であり、意見の正当性は自分を満足させる正当性しか無く、しかも言うだけ言ってすっきりすたら忘れ去って責任を取るつもりはない水準に過ぎない」

「ええっ? 責任取らないの?」

「いじめってのは、そういうものだ」

「いじめを行った者に責任を追求する行為は行われないの?」

「たいていは行われないよ。社会は、とてもいじめる側に寛容なんだ」

「それでも追求されたら? 被害者の家族とか怒って追求することもあるだろ?」

「間違ったことをして皆様に迷惑をおかけしました、と謝る。でも、被害者に謝ってるわけじゃない。社会的に正当と見なされない根拠でいじめてしまった点を謝っているんだ。大義名分の選択をミスって、ごめんなさいってことだ」

「それでも正しく被害者に謝れ、という話になったらどうする?」

「加害者側もトラウマになる。心の問題が結局何も解決されないまま残るだけさ」

「それじゃ誰もハッピーエンドになれないよ」

「そうさ。だから、いじめなんて最初からやるなってことだ」

オマケ §

「それで君が東電に関して言いたいことは全部吐き出したのかい?」

「そうでもない。もっともっといろいろな側面があるけど、長くなるからやめた」

「君に意見がある人もいると思うけど?」

「たとえばさ。東電が電気料金を上げてはいけないけど、東北への補償金は青天井で出せと要求するような人は、当然、無理難題を要求してるわけだ。それをなんとか実現しても、おそらく停電しやすい弱体化した東電が残るだけだ。そこで、『停電したら自転車を死ぬ気でこいで俺が発電してやる』とまで言い切って自説を主張するのなら聞いてやるよ、ってことだ」

「自転車こいだぐらいで足りるの?」

「まあ無理だろうね」

「じゃあ、何が言いたいわけ?」

「少なくとも、自分の言ったことに責任を取る気概がある、という態度を見せることが話を始めるためのスタートラインだって事だ」

オマケその2 §

「でも、どうして君は他の人たちと違う意見を言うの?」

「おそらく、見ているところが違うからだ」

「どう違うの?」

「大多数は、福島のたった1つの原発と謝罪する偉い人をテレビでしか見てない。おいらは昔からTEPCOマンホールを探索して多数の変電所も鑑賞している。変電所らしい変電所なら、遠くから見ただけで『あ。変電所だ』と分かるぐらい慣れ親しんでいる。訓練用の電柱や鉄塔も見てるしね」

「君は詳しいってことだね?」

「ははは。素人相手に勘違いをするな」

「えっ? 詳しくないの?」

「素人だぞ」

「胸を張るな」

「結局、君の言うことを信じるなってことか」

「あたぼうよ」

「じゃあ、何が問題なんだい?」

「そんなおいらから見てすら『おいおい』という低レベルの東電叩きが横行している惨状さ」

「どうして、そんなに差が出るのだろう?」

「歩いた距離の差だろう。テレビから見えてくる光景と、実際に歩いて見えた光景は同じではない」

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