「わはははは。すげー」
「なんか喜んでるね」
「釜の底を踏み抜いてしまった感じだよ」
「順番に話を聞こう」
午前10時の映画祭というのは §
「午前10時の映画祭は、映画館に通い始めた頃に既にやっていた。しかし、今更旧作を見ても……と思って特には見ていなかった。1期で見たのは古墳ギャルのコフィーの劇場版の元ネタである『12人怒れる男達』だけだ」
「そうか」
「2期になって、『昼顔』を見たのは昔テレビで見た映画を今見るとどう感想が違うか興味があったからだ。ここまでは、ある意味で想定の範囲内。特殊事例なんだ」
「そこからは違うの?」
「『シベールの日曜日』になると、単に『名前は知ってるから見ておこうか』という程度でしか無い。それほど突っ込んだ理由が無い」
「そうか」
「でも、『情婦』になると、名前すら知らなかった」
「知らないで見に行ったのか」
「一応、どんでん返しのある法廷ものらしいので、見に行ったのだ」
「それで?」
「しかし、午前10時の映画祭を見る理由がますます無い。何も無い」
「確かに、名前すら知らない映画を見るモチベーションが無い」
「結局、嗅覚なんだ。こっちの水が甘そうだと」
「犬か」
「そうだ、ポチがここほれワンワンというので、掘ってみたら大判小判がざっくざく」
「そんなに大当たり?」
「そうだ。これでもう、午前10時の映画祭は、意外性に満ちた傑作映画の宝庫でしかも安上がりというイメージが確定した」
観客達 §
「それで観客の入りはどうだった?」
「かなり席が埋まってたぞ。やはり面白いから人気映画なんだろう。あと客層が昼顔やシベールの日曜日よりも、もっと渋かった気がする。きっと、それらより客層がエロくないのだろう」
感想 §
「それじゃ、映画本編の感想を頼むよ」
「比較的長い映画だが、最後の最後まで全く飽きなかった。驚くべきことだ。きっと面白いからだ」
「どこが面白いの?」
「面白い理由はいくつかある。1つは主人公のキャラクターが凄く面白いこと。もう1つは、事件の真相を探ること」
「主人公のキャラクター?」
「付き添いの看護婦に止められているのに、水筒にはココアといつわってブランデーを入れるし、隠れて葉巻も吸うし。事務所の階段にリフトを付けると面白がって上がったり下がったりするし」
「そうか」
「そんなガセネタに引っかかるか、と言った次の瞬間に電話の主に会いに行くし」
「なるほど」
「けっこう笑いが漏れる映画であった。これは良い傾向だ」
「法廷映画なのに笑えるとはね」
「そうだ。勢いがあって楽しいぞ」
「事件の真相は?」
「2転3転する。これも飽きない」
「そうか」
「しかし、オチのネタバレはしないぞ」
「そういう映画ってことだね」
「おいらも、何となく最後にひっくり返るらしいことは分かっていて、ある程度先を読んでいた。その読みは当たっていた。しかし、そこで終わるだろうという予測は間違っていた。まだ先があった。これは嬉しい誤算だ。あっけに取られて声も出ない結末が付いていた」
「嬉しい誤算か」
「まさかまさかの結末ですよこれは」
「そんなに?」
「さらば宇宙戦艦ヤマトなんて可愛いものだ。あれぐらいで文句を言っちゃいけない」
この先 §
「ではこれからどうするつもり?」
「カリブの海賊は横に置いて、また行くかな。午前10時の映画祭」
「パイレーツ・オブ・カリビアンだろ」
「しかし、午前10時の映画祭はいいぞ」
「どこが?」
「結局さ。昔の洋画はテーマ的に今の日本と似通った社会状況を描いていて、ぜんぜん中身が古くないんだよ」
「トーキーのモノクロ映画でも?」
「そうさ。モノクロでも中身は古くないのだ。この『情婦』にしても、そのまま日本を舞台にしたドラマに置き換えて通用する中身だろう」
「そんなに?」
「外国人妻、詐欺、遺産相続、家政婦、陪審制、異議あり!、どれも今の日本通用するテーマばかりだ」