「ポケモンである」
「映画見てるような状況じゃないだろ」
「だから思い切って意欲は無かったが見てきたのだ」
「それで、わざわざ見た価値はあった?」
「うん。これって、映画としては凄くストレートな直球勝負だと思った。そこは好感するよ」
「え? 直球? 2作品同時公開って奇策で来たんじゃないの?」
「中身は驚くほどストレートだったよ」
白黒の問題 §
「それで、どうして白を見たんだい?」
「時間が上手く合ったから」
「は?」
「どっちでも良かったんだよ」
「どうして?」
「予備知識無いから」
「ぎゃふん」
ポケモンが多すぎる問題 §
「この映画は、ビクティニ、ゼクロム、レシラムという3ポケモンが絡んで煮え切らない映画になるのではないかと思った」
「確かに主役級ポケモン3体は多いね」
「でも、無駄に多くは無かった」
「どうして?」
「被害者、加害者、救出役で立場が3つある。そこにぴったりはまっているから無理がなかった」
中身の問題 §
「内容はどうだい?」
「実は、この映画は途中まで複線で進む」
「どういうこと?」
「サトシ達が姿を消せるポケモンと仲良くなる話と、散り散りになった大地の民の国を再興するという話だ。両者は知り合って、仲良くなる。別個の物語の担い手が1つになる」
「うん」
「どちらの話も問題は無い。いい話だ。よく演出されていて、良くできている」
「じゃあ、1本の映画が実質的に2本あるってこと?」
「そうじゃない。実は2つのストーリーが交わった後で話がひっくり返る」
「というと?」
「サトシ達が仲良くなったビクティニは、大地の民の復興のために捕獲され、苦しめられる存在だったということだ」
「えっ?」
「いい話が2つ並んで進んでいたのだが、その2つは相容れなかったのだ」
「ひぇ~」
「しかも、復興というのは誤解で、実は災厄を招く行為であったのだ」
「救いが無いね」
「そうだ。実はこの話は悪人がほとんど出てこない。ロケット団は出てくるが実はほとんど何もしない。基本的に悪役が存在しないのに、危機と闘いが発生してしまう映画なのだ。まさに救いが無い」
「伝説のポケモンが助けてくれる映画じゃ無いの?」
「伝説のポケモンは人間を手助けしてくれる存在だが、人間そのものがグダグダである以上、決定的な役割を果たさない」
「えっ?」
「まさにグダグダだ」
「救いは無いの?」
「救いはある。最終的に(おそらく)誰も死なないで決着する。死にそうになった人たちも何とか生き延びる」
理想って何? §
「話はそれだけ?」
「いやいや。実は理想って面白く無さそうだと思っていた」
「どうして?」
「理想のために頑張りました、って話は面白く無さそうだと思ったからさ」
「それで?」
「この映画の場合、実は理想は間違った理想なんだ」
「えっ?」
「理想の追求は間違った行為となり、悪意が無いのに災厄を将来する。そういう皮肉な話なんだよ」
「ははは。君の好きそうなパターンだ」
「その通り。だから、納得したぞ、この映画は」
ヒロインの問題 §
「この映画は、特にアイリスの表情の描き方がテレビと違うと思った。もっとヒロインらしい顔になっている」
「そうか」
「更に、無駄に肌を露出しないアイリスの代わりに、ゲストキャラのおねえさんが無駄にミニスカで色気を出しているがこれがいい」
「どうして?」
「上半身は民族衣装風なのに、下半身がミニスカなので、ギャップで色気が強調されていいい感じだね」
「いい感じか」
いい感じの問題 §
「いい感じといえば」
「といえば?」
「確か初期の初期のポケモン映画だったと思うが、ルギア爆誕だったかな、ロケット団の『いい感じ』で終わる映画があったと思うが、今回も『いい感じ』で終わったのはいい感じだったな」
オートジャイロの問題 §
「飛行メカがオートジャイロというのも良かったな」
「カリ城かい」
「そうじゃないけどな。でも城と言えば、無限に上昇していく城はラピュタっぽい」
「えっ?」
「でも、城に取り残されて高空で寒さに震えるのは完全に違う種類の冒険を目指した映画だね」
サトシの問題 §
「結局、この映画はサトシの映画なんだ。ポケモンの映画じゃない。最後まで身体を張って走り回るのはサトシであり、サトシに抱かれて保護されるのがピカチュウであるビクティニであるわけだ」
「そうか」
「だから、安心して少年の冒険物語として見られる」
「そこは重要?」
「重要だ。その結果として、映画は普遍的な価値を獲得できる」
王道の問題 §
「この映画は本当にストレートだよ」
「そんなに?」
「変化もあれば大破壊もある巨大な仕掛けもある」
「そうか」
「かといって、過剰に登場人物が多くない。多くなりそうに思えるが、実はかなり限定されている」
「そうか」
「1つ1つ提示された演出がきちんと回収されていくのもいいね」
「たとえば?」
「マカロンで仲良くなったビクティニは、最後にまたマカロンで出てくるとか」
「そうか。映画としてきちんと終わっているということだね」
「うん。だから、もう1回、黒も見に行きたいかというと微妙だね。きちんと終わってくれた映画を蒸し返すのも無粋だ」