「ってわけでICE3だが、こいつは今日になって届いた」
「届いた感想は?」
「箱がでかい」
「なんで?」
「フィギュア入り」
「フィギュアのできはどうだい?」
「やはり監督本人がモデラーなので、けっこう厳しくチェックが入っているとみた」
「どこが違うの?」
「動きの瞬間を切り取った躍動感のあるポーズ。そこがポイントだと思うよ」
「ふーん。ところで、君は模型を塗るのが好きなのに、塗装済みのフィギュアでいいの?」
「良いわけ無いでしょ」
「じゃあ塗料を剥がして塗り直す?」
「いや、そこまではやらない。細かすぎてたぶん上手く塗れない。特に目の横の赤い色。あれは綺麗に塗り分けられない」
「じゃあ、どうするんだよ」
「まだ決めてない」
「DVDの中身はどうだい?」
「まだ、意味を掴みかねる箇所ばかりだよ」
「それでもいいの?」
「繰り返し見るとたぶん分かる。そういう確信を持てる。1巻だけは既に3回見たけど、見ると本当に理解が進む。1回ごとに印象が変わる。これはお得だよ」
「1枚買って繰り返し見るだけで違ったお楽しみが可能になるわけだね」
「レンタルなら1回見て返しちゃうけど、買ったら2回以上見ないと損だよ」
「他には?」
「映像特典がいいよね」
「コスプレ撮影の記録がいいわけ?」
「そうそう」
「どこがいいわけ?」
「5人も若い女の子を並べて起きながらスカートはいてる娘が1人もいない。しかも、ポーズを付けても営業スマイルさせない。作中のキャラクターもそうだと言えるけど、それ以上に生々しさを感じさせるよ」
「生々しさって、どういう意味?」
「つまりさ。男から金を搾り取るための営業スマイルは絶対に虚構のスマイルなんだよ。でも、笑わないとしたらより本音に近い部分に肉薄したのではないかと思えるわけだ。あざといミニスカートもはかせない。安易に男性視線に媚びを売らない。そこで、営業スマイル以上の何かが立ち上がってくる。そこに生々しい女性としてのありようがあって、より以上の色気が発生する。大衆消費財としての作られた色気以上の何かがにじみ出る」
「本当に?」
「まあ、作りが甘くて普通のアイドル写真になっている部分もあるけどな。狙い目そのものは、もっと上を見ていると感じたよ」
ICEシリーズ総論 §
「1回見て慌ててDVD買った作品としては、細田守監督のデジモンアドベンチャーや、加戸誉夫監督のロックマンエグゼ 光と闇の遺産とかがあるわけだけどさ。結局、ICEが最高だと言おう」
「なぜ?」
「結局さ。縛りが最も少ないからだ」
「どういう意味?」
「デジモンはデジモンというシリーズの縛りが。ロックマンはロックマンというシリーズに縛りがある。しかし、ICEには無い。完全に独立している」
「具体的には?」
「たとえば、ロックマンなら闇太郎とナンバーマンが出てきたりするのはシリーズを通したファンサービスのネタであり、一見の客には理解できない。しかし、ICEに関してはシリーズのファンに対するサービスという要素が存在しない。そもそもシリーズは無いんだ」
「ふーん」
「別の言い方をすると、ICEって実はサクラ大戦に最も近いと思うけど、サクラ大戦に存在する制限事項を全部取っ払うとICEに非常に近い存在になるとも言える」
「そりゃどういう意味で?」
「たとえば恋愛ゲームという縛りから、ゲームが成立するビジュアルやシステムが存在し、そこに拘束が発生する。宝塚風に進行しているにも関わらず主人公だけが男で参加せざるを得ない。恋愛ゲームだからだ。無理のある設定が山ほど入るので、あまり突飛な設定を持ち込めないから架空の過去の話にせざるを得ないが、ICEは未来の話にできる。全体的に設定の無理を減らせるから時制を未来に持って行けるのだ。あるいは、未来に持って行くことで無理を減らせるとも言える」
「それで?」
「だからさ。全てのキャラは主人公との恋愛候補という立場を解除されて自由に生き生きと動けるのだよ。そして、よりピュアな宝塚的世界観に入り込める」
「つまり、ICEは過去の他のアニメよりも、よりかくあるべき素直な世界になれたわけ?」
「そう思う」
「なぜだと思う?」
「秋元康さんという大物がバックについて、全権を小林誠監督に委譲したからだと思う。メカデザイザーだと思われて監督としてそれほど大きな実績を持たない小林誠さんが自由に動けるチャンスを作ってくれたのだと思う。ただの想像だけどね」
「でも、それでいいわけ?」
「小林誠さんは、どちらかといえば自分の世界を作れる監督タイプ。メカデザイナー出身の監督というカテゴリの該当者は何人かいるけれど、彼らとは立ち位置が違うと思う。もともと監督タイプだったのだと思う」
「それじゃ秋元康さまさまじゃないか」
「そうだよ。結局、『OH!MYコンブ』も『りりかSOS』も『ZZガンダム』の主題歌も秋元さんのおかげであるようなものだ」
「小林さんラブラブの話になるかと思いきや、秋元さんラブラブなのか?」
「特に『OH!MYコンブ』は凄かった。何しろ、うちの死んだオヤジが自発的に毎週見てたもの。アニメ見る習慣なんてないが、毎週見て、主人公のオヤジが変な食べ物を作るとゲラゲラ笑っていた。企画に突破貫通力があったんだよ」
「ひ~」
ICEって §
「ICEって異常な世界なんだよね。でもさ。ヒトミ・ランツクネヒトだけ正常なんだ。そこから視聴者は世界に入っていける」
「ヒトミもおかしいよ」
「そうだ。最も狂っていると目されるヒトミがもっとも健全な精神を持っているという皮肉が作品の軸にある」
「でも死んじゃうよ」
「だからさ。YESTERDAY, TODAY, AND NO FUTUREなんだよ。未来が無い」
個人的な誓いの話 §
「個人的には、小林誠ブランドなら何でも手を出すようなパブロフの犬にはなるまいと心に決めていたのだよ」
「それは作品を是々非々見ていくということだね?」
「そうだ。オタクの間でブームになる作品は跨いで通って、小林誠さんの作品や小林さんが言及する作品を見るのは、あくまで良いものが見られるチャンスを増やすための方策であり、それを絶対として捉えることだけはしたくなかった。自分に対する最後のジャッジは自分でしたい」
「でも、目の色を変えてICEのDVD買ったじゃないか」
「それは作品に惚れ込んだからだ。ヒトミと衛視隊がこんなに良い奴等でなかったら、ここまで熱心にはなっていないよ」
「それだけ?」
「実はICEって、オタクの願望の真逆になるような構成なんだよ」
「具体的にどういうこと?」
「たとえばICE1。無名の新人が凄い力を発揮してロボに乗ってみんなを救うのがオタクの望んだ世界。ところがICE1では、無名の新人は一瞬で死んでロボは決定的な役割を果たさない。それどころかクライマックスでロボは活躍しない。クライマックスは『鳥を見た』なんだよ」
「それでいいわけ?」
「そこがいいんだよ。才能ある新人がベテランを差し置いて大活躍なんて、いかにも嘘くさいだろ? 実際にそんなことは起きない。若い新人の根拠の無い自信はまず最初に否定されることから始まる」
「なんで否定されるの?」
「根拠が無いからだ。実際には何をやらせてもできない」
「やったことあるから出来ると思っているんじゃないの?」
「実は『たまたま出来ました』と、『確実に可能』の間にはとても大きなギャップがある」
「才能が本当にあったら?」
「それでも、『やりたいことができる』と『頼まれたことができる』の間にはギャップがある。その差を乗り越えるのは難しいんだよ」
オマケ §
「そうそう。サクラ大戦に対して決定的に優れているのはAKB48にはもともとステージが存在することだよ」
「は?」
「サクラ大戦はミュージカルを可能にするために作品に縛りが発生してしまう。ところが、ICEに関してはもともとステージ上にいるメンバーが声優に大挙して参加しているから、最初からステージがあるわけだ。だから作品にステージに対する縛りが発生しない。その結果として、ICEのステージはミュージカル的な演劇から解放され、より作品に奉仕可能になる。結果として、ヌードショウ会場になったけどね」
「ちっとも見て嬉しくないヌードショウだね」
「クラゲのヌードショウ……」