「昔の邦画の戦争映画だと、みんな死んじゃうんだよね」
「たとえば?」
「イー57降伏せずはみんな死んじゃう。第2種軍装に着替えて潜水艦が水上戦闘を仕掛けるなんてまさに死にますって内容だ」
「他には?」
「太平洋の嵐は、2航艦の司令官と飛龍の艦長が身体を縛り付けて沈んでいく。そして、海底で何を間違ったのでしょうか……と死んだ後で後悔の会話を交わす」
「ひ~」
「イー57のオーディオコメンタリーで言っていたけど、戦中の軍人の感覚で言うと死ぬのがノーマル。若い人は死ぬのはおかしいと言うが、当時は死ぬのがノーマル」
「君は死ぬのがノーマルだと思うかい?」
「いいや。思わない。敗北とは得がたい経験であり、それだけの経験を積んだ人材をみすみす殺すのは国家的損失。ただし、そういう判断とは別次元として時代の常識というものがある」
「それで何が言いたいんだい?」
「だからさ、さらば宇宙戦艦ヤマトの結末はそういう観点で見るとまた違うんだよ。あれは、勝利して地球を救うために古代が死んだという話ではないんだよ」
「えっ?」
「少なくも土方を座らせるまでは古代が指揮官としてみんなを引っ張ったわけだ。そして土方が死んだ後も古代がみんなを引っ張ったわけだ。その責任は古代にあり、古代は敗北の責任を取って死なねばならない。それが古い時代の美学だ」
「それにどんな意味があるんだい?」
「古代の振る舞いは、沈む飛龍の艦橋に身体をくくりつけて一緒に沈んでいくのと同じとすれば、既に戦闘力は無いんだよ。ヤマトをぶつけて対処できるレベルの敵ではない。従って、敵を倒して地球を救うためにはスーパーパワーとしてのテレサが同行する必要がある。そこで、既に古代が体当たりを決意しているのにテレサがわざわざ同行するという矛盾が解けてくる。古代は敵を倒しに行ったというよりも、責任を命で払いに行ったのだ」
「では、古代はどこで間違ったの? なんで命で代償を払うほどの羽目になったわけ?」
「うむ。そこだ。古代はあくまで善意の人助けのために命令無視をしただけだ。しかも、行動は藤堂から黙認されていた。そう簡単に悲惨な結末には至らない」
「でも悲惨な結末には至ったよ」
「そこだっ! なぜさらば宇宙戦艦ヤマトのヤマトは悲惨なのか」
「なぜだ?」
「実はね。全部土方のせいだと言えるんだよ」
「えっ?」
「土方の最後の一兵卒まで死ねという方法論、全滅戦法が土方指揮のヤマトを貫いている」
「まさか」
「ゆうなぎで倒れている土方は、既に部下の全員が死んでいる。まさに全滅戦法だ。自分も死ねば貫徹されるが、それは古代らに阻止されてしまう」
「ひ~」
「最初は宇宙気流。あれもぎりぎりまで粘ったが、一歩間違えばヤマトは壊滅するところだった」
「全滅戦法か」
「そして、偵察もしないでいきなり空間騎兵隊を降下させる。おかげで戦車相手に生身で戦う羽目になる。多弾頭砲はすぐには撃てない」
「全滅もあり得た状況か」
「デスラー戦もやばい。接舷されて乗り込むということは、乗り込まれる可能性もある。下手をすれば全滅だ」
「ひ~」
「そして、都市帝国戦。結局、みんな死んでいく。土方も死ぬ。そして最後に言い残したのは、全滅必死の無謀な作戦。それを与えて自分は死ぬ。古代は土方前艦長の命令を実行するしかない。死んだ人間には既に翻意を求められない」
「ひ~」
「結局は、無理して付いてきてもらった恩有る乗組員達をほとんど殺してしまった。森雪まで死んだ。まさに古代は責任を取って死なねばならない」
でもさ §
「でもさ。結局古代は責任を取ったというよりも、敵を倒して別の形で生きるために超巨大戦艦に行ったわけじゃない」
「そうだ。実際の映像では実は混乱している。混乱しているので、テレサが突っ込むだけで十分なのに、ヤマトも一緒に行くという少しねじれた描写になっていた。しかも、森雪の亡骸も一緒だ。ここは本来なら、ヤマト1974の第2話の『沈む大和』というリフレインになり、沈みつつあるヤマトに古代だけ残り、自分も残るという島に『馬鹿、若いもんは泳げ』と言うのが本来の物語の型だったのではないかと推定してみた」
「本来の型ね。そこからさらばは逸脱しているわけだね」
「結末は物語としての練り込むが足りない」
「練り込みが足りないとどうなるわけ?」
「ヤマトは成仏ができない」
「分かった。つまり、ヤマト2が生まれるわけだね?」
「ところが、ヤマト2の結末はもっと成仏ができない」
「ヤマト流浪の開始だね」
オマケ §
「その点で、テーマをストレートに言い切って完結した復活編やヤマト2199は既に成仏している。だから2199劇場版は全く別のことをするしかないが、全く別のことだとすればあらゆる可能性があって内容の推定は難しい」
「一度成仏しても枠組みを借りて別の話は可能ということだね」
「その魂はもういないが、別の魂は描きうる」
「分かった。ヤマトに古代守の魂はもういないけど、沖田の魂ならいるんだね?」
「何か違う」