「テレビ放送で見た感想だ」
「何回目?」
「回数は分からない。劇場公開時に見ているし、テレビで何回も見ている」
「それでどうだった?」
「やはり良く出来ていると思うし、実際に面白かったよ」
「何か気付いたことはある?」
「この映画は、耳をすませばの主人公、雫が書いた物語という設定らしいのだが、実はそれだと矛盾する」
「矛盾とは?」
「雫が書いた物語は失敗作なのだよ。しかし、この猫の恩返しは非常に出来が良く、素人の子供が背伸びした作りでは無い」
「じゃあ、致命的に矛盾してるってこと?」
「いや、そうじゃない。雫が西老人にバロンを使いたいと頼んでいることからして、その作品そのものではあるが、その作品そものではない」
「というと?」
「雫がベテラン・ライターになってから、若い自分が失敗した作品を書き直したリライト作なのだろう」
「その解釈だと何か良いことがあるの?」
「実は耳をすませばの作中で、雫の書いた物語はイバラード風の世界で展開されるファンタジー色の強い作品なのだ」
「遠くにあるものが大きく見える世界だね」
「そうだ。でも、猫の恩返しの世界は違う。同じコンセプトでリライトされている証拠だ。借り物の設定は捨て、上手く整合していない部分をいじり、登場人物さえ増減しているかもしれない。でも、バロンの物語という点は一貫性がある」
「そういえば、子供の頃の昔のアイデアをわざわざ今の技術で再構成してリライトする人もいるね」
「それは1つの典型的な行動だろうと思うので、十分にあり得る話と思って良いだろう」
「話はそれだけ?」
「いいや。実はハルの母に雫が投影されているような気もするね。ハルの母はデザインに悩んでいるデザイナーらしいので、雫の小説志望とは一致していないのだが、変形された形で雫自身が投影されているような気がする」
「実際には、そのように感じられるように考えてスタッフが作ったということだね」
「そう。実際には作者の月島雫は存在しない」
オマケ §
「キャラクターが作品世界の中で更に作品を生み出すというのは、メタが二階層になるメタメタ世界だ。面白いね」
「しかし、メタだけでも受け付けない人がいるのにメタメタはそれよりもっと難しいぞ」
「映画を1本ずつ切り離して見ていれば難しくはないよ」
「耳をすませばと猫の恩返しを連続した作品として解釈しようとした場合のみの問題だね」
「ちなみに、猫の恩返しの音楽で耳をすませばのメロディーが入ってくる部分は好きだな」