島との恋愛をアピールしたヤマト2のテレサはともかくとして、「さらば」のテレサの魅力というのは分かりにくい感じがありました。しかし、今あらためて「さらば」における「死」の理由について考えることを通じて、「さらば」のテレサの可愛さとは何かが見えてきたような気がします。という話を以下に書きます。
はじめに §
「逆転イッパツマン」の歌に合わせて「さらば宇宙戦艦ヤマト」の映像が! 説明しないと気が済まないほど凝ったMAD映像!!を書いた時、なぜか部屋の本棚に大切に残っていたヤマト関係の資料を出してきて参考にしました。
- ロードショー責任編集「さらば宇宙戦艦ヤマト」VOL.2 昭和53年11月20日発行 集英社
- ロードショー責任編集「宇宙戦艦ヤマト - 新たなる旅立ち」 昭和54年10月10日発行 集英社
ちなみに、「さらば」の1冊目も、無印ヤマトのロマンアルバムの初版本(リアルタイムで買った!)ももちろん本棚にありますが、それはさておき。
シナリオの研究 §
この2冊には、撮影開始時のもの、と断り書きの付いたシナリオが掲載されています。
見ると、実際の映像に無い台詞などがあって、なかなか興味深いものと言えます。きちんと研究する価値があると思いました。(とっくに研究している人はいる……、きっと)
たとえば、「新たなる旅立ち」では、放送された映像(そして現存するフィルム)には存在しない「コスモタイガーによる真田出撃」のシーンがきちんと掲載されています。このシーンがあれば、「永遠に」で古代守が真田に愛娘を託す理由が分かりやすくなって良かったと思いますが、ともかく存在しないシーンが書き込まれています。
一方、ゴルバによる惑星破壊のシーンについては、シナリオには掲載されていません。そのかわり、シーン番号が167からいきなり176に飛んでいます。このシーンがないと後のメルダーズと古代の会話が意味不明になってしまうのでイヤなのですが、ともかくありません。しかし、シーン番号が飛んでいることで、そこに「何かがあった」という明瞭な証拠を残しています。
このあたりを突っ込んで研究すると面白そう。
しかし、今回のテーマはそれではありません。
テレサは神か生身の女性か §
今回のテーマは「さらば」の方です。
シーン179
(前略)
真田「(呻くように)そうか……宇宙の愛か……」
斉藤、無骨な顔に涙。
斉藤「畜生! たまらねえ! いい女だなあ!」
古代「そうだ! ぼんやりしている場合じゃない! ヤマトに返ろう! 直ちに発進だ!」
シーン179終わり
私の記憶が正しければ、実際の映画では、真田の台詞でこのシーンは終わりです。
まず、古代の台詞は全くの蛇足で、カットするのが正解でしょう。あまりに間抜けすぎます。
問題は斉藤の台詞です。
斉藤はテレサの語る「宇宙の愛」に感動しているのは確かです。しかし、それだけではありません。テレサを「いい女」という目で見る視線も持ち合わせています。「いい女」とは、男から見て「抱く対象」ということになります。生々しい生身の存在です。神ではありません。
仮に、斉藤の台詞があったとすると、観客もテレサを「いい女」と思う方向に誘導されていたかもしれません。全裸のテレサが、「夜のオカズ」として消費される傾向がより強まったかもしれません。
しかし、実際にはテレサを「夜のオカズ」として認識する契機となる台詞は無く、真田の「宇宙の愛か……」で場面は転換してしまいます。
「宇宙の愛」というスケールの大きな課題を突きつけたままテレサは消えてしまい、結果としてテレサは「夜のオカズ」ではなく「女神」になったと言えるのかもしれません。
宿題としての「宇宙の愛」 §
古代、真田、斉藤、アナライザー、そして直接テレサには合わなかったヤマト乗組員達も、テレサから「宇宙の愛」という大きな宿題をもらったのかもしれません。
斉藤が「いい女だ」と言わなかったばかりに!
テレサが自らの命をかけて警告を発したことが「宇宙の愛」であるならば、古代らもまた同等の「宇宙の愛」を実践して見せねばならないことになります。
その結果として、個人でも郷土でもなく、より大きなもののために自らの命を投げうつ行動を次々と実践していきます。
それが、テレサからもらった宿題への答え……ということなのでしょう。
テレサは神か悪魔か!? §
テレサの最後の台詞を見ると、宿題はまさに宿題であったことが分かります。
テレサ「有難う、古代さん。私はあなたの中に勇気と愛の姿を見せて頂きました……あなたのお陰で、人々は目覚め、より美しい地球と宇宙のために働きだすでしょう……私はこの日を待っていたのです、(反物質である私の身体がお役に立つでしょう)、さァ、私も一緒に参りましょう」
(注:括弧内は上記シナリオにはないが映画にはある)
そう……。テレサは「この日を待っていたのです」。
つまり、テレザートで古代らに宿題を残して去った時から、彼らが「より大きなもののために殉死する」という日を明確に目標として掲げ、待っていたのです。
なぜ殉死する日を求めていたのか。それは、殉死を通して、「人々は目覚め、より美しい地球と宇宙のために働きだす」という状況が到来するからだと言います。それはあり得ない見通しですが、ここはテレサの顔を立てて、そうなるとして話を進めましょう。
そうすると、ここで1つ重大な問題が発生します。
テレサの目標が、その日を求めることにあるとすれば、殉死はその日を迎えるための手段となります。とすれば、白色彗星帝国そのものが、テレサから見れば手段の一部なのです。殉死が成立するためには、悪が必要だからです。
更に問題なのは、テレサも「一緒に参りましょう」と言う部分です。つまり、テレサは美しい殉死に自分も付き合うと言っているのです。これは、通俗的な言葉で言えば自殺そのものです。この台詞から見れば、テレサは最初から自分も自殺するつもりだった……というように読み取れます。
ということは、テレサとは自らが望んだ状況を達成したその日に美しい殉死に同行するという形での自殺を願望し、それを達成した者ということができます。
そのように考えれば、白色彗星帝国も、古代達も、テレサの自殺に付き合わされた被害者そのもの、つまり本来死ぬ必要が全くないにも関わらず、死を迎えた者達ということができます。
このように考えた時、それでもテレサは神なのでしょうか?
もしかして、悪魔という可能性は無いのでしょうか?
やはり惜しいのは斉藤の台詞 §
やはり、斉藤の「いい女」という台詞があればな、と思います。
それをカットしたことで感動は深まったと思いますが、逆にその台詞があれば良い映画になったと思います。
オチ §
古代の中に自分が理想とする愛を見たテレサ。
一緒に参りましょう……とテレサが言った直後に古代が語る本音。
それは、雪への愛がいちばん大切だという、宇宙の愛の対極にある個人の愛の告白でした……。
そう考えると、さらば宇宙戦艦ヤマトとは悲しい映画であり、テレサとは悲しい女性なのかも。
これで、今まで良く分からなかったテレサの可愛さというものが、何となく見えてきた気がします。ヤマト2のテレサは、島との愛という分かりやすい取っ掛かりがあったので良かったのですが、「さらば」のテレサは良く分からなかったのです。しかし、あり得ない「宇宙の愛」を望み、それを達成したと信じた瞬間に裏切られた悲劇の女性だとすれば、その悲劇性の中に、他のいかなるヤマト・ヒロインにもない大きな魅力が眠っていたのだという気がしました。
余談 §
結局、曖昧なまま文章を公開できないので、昔なぜかお金があった時代に買い込んだレーザーディスクのヤマト映画ボックスを奥から苦労して出してきて、「こんなこともあろうかと」わざわざヤフオクで買っておいたレーザーディスクプレイヤーで再生して確認しました。チャプターも打ってないディスクなので、山勘の時間直接指定再生で対処しました。
いや～、しんどかった～。
それにしても、冒頭のデスバテーターによる無差別空襲シーンは絶品ですね。特に機体の奥から斜めにミサイルが出てくるカット。
2006年8月20日追記 §
「さらば」の作品の検証は、もっとより深くやれる余地があるし、ぜひやりたいな。
実は、「さらば」にはきれい事では済まないドロドロの世界があるように思います。
たとえば、みんな同じ理想を見ているようで、各人の思惑が実は全く違っている……といった状況が散見されます。一例を出せば、ヤマトを求める人々の声に応えてワープアウトしてくるヤマト……という状況は声と行動がピッタリ噛み合っているように見えます。しかし、人々の望みは自分たちを守ることであるのに対して、ヤマト側は「地球だけ助かれば良い」という利己主義を否定した立場です。人々はヤマトに声援を送っていても、けしてヤマト側の主義主張を肯定している訳ではないのです。
藤堂長官の思惑や、土方艦長の思惑も、古代らとは食い違っている可能性もあり得ます。では、藤堂長官や土方艦長の考えは具体的にどのようなものであったのか……。特に、沖田のレリーフを背負ってヤマトの指揮を執る土方の心情はどのようなものか……。深く踏み込んでいくと、いろいろ出てきそうです。
つまり、「さらば」という映画を「お涙頂戴」の「特攻賛美」な「右翼映画」として切って捨てるのではなく、その映画の中にわだかまる深い屈折を掘り起こして分析したいということです。
ついでに言えば、このような分析は、なぜヤマト2が(少なくとも私には)面白く感じられないのか……という原因を突き止める行為につながる可能性があります。つまり、ヤマト2は綺麗に完成している代償として、深い屈折を失ったのだ……という可能性があるわけです。
というわけで、どこか「さらば」の作品分析本を出版してくれる……という奇特な出版社は無いものかな……。
いや、さすがに金がないので、仕事にならない作業に時間をつぎ込めないという現実が…… (汗。
