池袋の東京芸術劇場まで行って聴いてきました。
日本フィル第184回サンデーコンサート・交響組曲「宇宙戦艦ヤマト」A面再生プロジェクトです。
曲目・第1部 §
- 宮川 泰:イスカンダル
- いずみたく:見上げてごらん夜の星を
- 黒人霊歌:深い河
- グレン・ミラー:ムーンライト・セレナーデ
- カプア:オー・ソレ・ミオ(錦織健)
- 宮川彬良:空のわすれもの(錦織健)
- 高取ヒデアキ:「タイタニア」より“あの宇宙を、征け” (錦織健)
曲目・第2部 §
宮川 泰:「交響組曲宇宙戦艦ヤマト」より
- 1.序曲 (錦織健)
- 2.誕生 (ささきいさお)
- 3.サーシャ
- 4.試練
- 5.出発<たびだち>
- 6.追憶
宇宙戦艦ヤマトEP版より
- 真っ赤なスカーフ(ささきいさお)
- 「宇宙戦艦ヤマト」主題曲(ささきいさお、錦織健)
アンコール
感想 §
3年前にも交響組曲を再現するコンサートがあり、それも聴いています。
それと同じような趣旨という予測は全く裏切られました。
前回は、同じ楽器、同じ歌手/合唱隊が揃っていないにも関わらず。完全に交響組曲そのものを再現してしまうコンサートであったと感じます。
しかし、今回は完全に同じスコアで同じ演奏を行いつつ、別のニュアンスを付け加えて別の価値を持つ作品にしてしまうコンサートであると感じました。
では、具体的に何が違うのか。
ポイントはここに錦織健が存在する意義です。
本格派のテノール歌手でありながらアニメやゲームにファンとして深く関わり、1960年生まれとしてヤマトの洗礼を受けた彼は「ヤマトの音楽にトラウマを植え付けられて人生を曲げられた者達」の1人であり、送り手の側の宮川彬良や、私を含む聞き手のかなりの人数と同じ人種であると思われます。
その錦織健が担った役割とは、可能性としては事前に検討しながらもあり得ないと思っていた「スキャット」です。彼は、序曲の第2パートのスキャットと、「宇宙戦艦ヤマト」主題曲のスキャット部分を歌いました。特に、前者は絶品であったと思います。
さて、ここまで読んで意味が理解できずに混乱した人も多いと思います。
より詳しく説明します。
まず、オリジナルの交響組曲の時点で川島和子に求められた資質と、このコンサートにおいてスキャットに求められた資質は同じではないことに注意が必要です。このコンサートは、一種の「トラウマの共有」が行われるイベントであるため、単に上手く演じるだけでは十分ではありません。おそらく、ここで十分と見なしうるのは以下の3種類だけだと思います。
- 川島和子本人が演じる
- 交響組曲のスキャットの完全再現
- 聞き手が持つトラウマを理解した上での、トラウマを癒す表現
そして、錦織健が行ったには紛れもなく最後の1つだと思います。つまり、これはトラウマをもらった側にしかできないことであり、しかも、本家に負けないだけの表現力を持つ錦織健だからこそ成立したものだと思います。
更にもう1つだけ重要な要素があります。
それは、神秘なる女性(サーシャ、スターシア)に対する男が抱くロマンは、おそらく男でなければ的確に把握できないだろう、という点です。
従って、歌の世界ではしばしば見られる「女の心情を男が歌う」パターンと同様に、必要な心情を歌い上げるには「男性歌手」の方がより深く的確であるという逆説が生じるわけです。
であるから、錦織健のスキャットは深く心に届く素晴らしいものだったと思います。
そして、この事実はこのプロジェクトが持つ意義が既に「再現」という範疇から逸脱していることを示します。そして、それは正しい進化であると思います。「再現」は「新しい何か」を得るための手段として機能しているわけです。
感想 §
その他の感想をアトランダムに書きます。
- 今回の交響組曲は、もっと磨けば良くなると感じました。このオケのポテンシャルはまだまだこんなものではないでしょう。まだまだ発展途上!
- しかし、上手くはまったときの音は絶品だ!
- それにも関わらず、本当にオリジナルの交響組曲に忠実!
- ささきいさおの歌のバックのスキャットを錦織健がやるなど、凄すぎて絶句
- 錦織健のスキャットはもう1回聴きたいが、次も同じようにやれるかは分からない。これは一期一会の凄みかもしれない
- 他の曲もいい! 特に「空のわすれもの」は凄く良かった!
- 彬良さんのトークの面白さはやはり絶品
- サプライズのゲスト、松本零士さん。これも豪華すぎ
- 彬良さん、次はマジンガーの曲もやって!
- 最近地上波でアニメ、タイタニアも見てますが、今日のコンサートで何となくタイタニアの位置づけが見えたような気がします。石黒昇、宮武一貴といったヤマトのスタッフ経験者や、美樹本晴彦のようなヤマトの影響を受けた世代の名前を見ると、同じようにヤマトの影響を受けた錦織健が主題歌を歌うのは必然と見えます
というわけで、素晴らしい時間を過ごせました。
ちょっと待て §
もらったちらしの束を見ると、とんでもないものが。
東京交響楽団
2009年5/16 (土) 6:00pm
東京芸術劇場シリーズ 第100回
指揮=大友直人
ヴァイオリン=大谷康子
ピアノ=若林 顕
ヴォカリーズ=安井陽子
混声合唱=東響コーラス
服部隆之:TBS日曜劇場「華麗なる一族」より
坂本龍一:映画「戦場のメリークリスマス」テーマ曲
三枝成彰:NHK大河ドラマ「太平記」より
三枝成彰:映画「優駿 ORACION」より
羽田健太郎(テーマ・モチーフ:宮川泰、羽田健太郎):交響曲「宇宙戦艦ヤマト」
交響曲「宇宙戦艦ヤマト」ってあなた……。
何というとんでもないものを。
こいつは交響組曲と違って、知名度はかなり低いですよ。「さらば」あたりでヤマトを見限ったマニアは存在すら知らないかもしれません。
それをやるのですか!
しかも、指揮=大友直人とは、交響曲「宇宙戦艦ヤマト」のオリジナルの指揮棒を振った人ですよ。
というわけで、一緒に聴きに行った宮崎駿ネットワーカーFCのジジさんと一緒に劇場にとって返して、その場でチケットを買いましたとも。
知名度、人気度からいって、交響組曲とは比較にならないほど、聴けるチャンスがとてもつなく低いと思うので。
それにしても、世の中どーなってるの!?