FAIRY TAILを4巻まで読んだ時点での感想です。
謎の軽さ §
FAIRY TAILの1巻を読んだ最初の感想は以下のようなものでした。
- 面白く、よく描かれている
- しかし、軽すぎるほど軽い
- その上、子供っぽい
しかし、デスクサイドに置いておいた単行本を何回も手にとって眺めている自分に気づいて違和感を感じました。
- 自分の趣味としては明らかに軽すぎ、子供っぽすぎるのに引きつけられる魅力とは何か
この謎を解くために、そのまま読み進めて4巻まで来ました。そして、ようやくFAIRY TAILに隠されたトリックがうっすらと見えてきました。
問題点 §
まず問題点を先に列挙してみます。
- 子供があっさりと大きな力を振るいすぎる
- 物を壊しすぎても罪の追求が手ぬるい
- 敵の動機も子供っぽいものが多い (おまえら不良高校生か、というぐらい愕然とするレベルだったりする)
まあ、言ってみれば高校生レベルの子供達が殺傷能力のある武器を持って部活動感覚で暴れ回っている感じでしょうか。これはあまりにも軽すぎます。まさに「子供の世界」の物語で、大人が読むに耐える作品とは言えません。
「子供の世界」の物語ではなかった §
しかし、じっくりと読み込んでいくと、「子供の世界」の物語というのは表面的に見せかけられた一種のフェイクであり、実際にはバックグラウンドに「大人の世界」が存在することがきちんと描き込まれています。
つまりこの世界は大人と子供がいて、社会があり、社会の規律や規範があり、誰でも何でも好きなことを勝手に行うことができない世界であることを描いています。
まずそういう確固とした「大人の世界」が作者によって理解され、バックグラウンドの設定されています。
実は、過剰なまでの「軽さ」「子供っぽさ」という印象が残るのは、バックグラウンドに「大人の世界」が描かれているからだ、とも言えます。これらは、コントラストによって強調されるものであり、「大人の世界」があってこそ「子供の世界」が鮮やかに浮かび上がります。
そして、「子供の世界の鮮やかさ」によって「大人の世界」の存在を隠蔽しています。
マカロフという隠蔽システム §
このトリックのキーとなる人物がマカロフです。彼は子供達に好き勝手なことをさせる立場であり、大人の世界からの要請をシャットアウトして見せない立場でもあります。つまり、第26話扉絵のマカロフの説明で「謎につつまれている部分は多い」という「謎」の一部は、彼が握りつぶした「大人社会からの要請」なのかもしれません。
まとめると §
大人の世界のしがらみの大多数をぶち壊しながら、根拠のない自信だけ支えられて突進していく爽快感のある作品、でしょうか。
それを支えるだけの奥行きの深い包容力が作者にあるので、間違った振る舞いをする者も、悪事を働く悪党が抱える心の痛みも、すべてがきちんと受け止められ、更に先に進むことができるのでしょう。
つまり、見た目と違って、驚くほど奥行きが深い作品だろうと思います。本当に読み込むには、コマの間を読む読解力も必要かもしれません。
余談 §
しかし、特に好きなのは4巻でルーシィに脱げと命じる門番と、このときだけは阿吽の呼吸で一緒に服を脱がすナツとグレイだ!
もう1つ、社会的な「勝負時」は短いスカートで挑発するのに対して、プライベートな時間はズボンだったりするルーシィのファッション描写も丁寧によく描けていますね。フェアリーテイルに馴染んだ後、顔を出すときは長いスカートだったり。ファッションと社会との距離感がきちんと連動しています。これは、社会がきちんと描かれている1つの証拠だと思います。