「実はヤマト第2話の戦艦大和のシーンには、BGMが軍艦マーチの版と、別の音楽が入っている版があるという」
「ふむふむ」
「一応、別の音楽が入っている方が正規のフィルム扱いらしいのだが、いろいろな綱引きがあったようだ」
「戦艦大和だから、軍艦マーチでいいんじゃないの? ヤマトに似合うかどうかは知らないけど」
「これから宇宙冒険を描くのに、右翼と思われては無用の反発を招くという意見もあったのだろう」
「まあ確かに軍国主義の亡霊が復活した、という人もいるしね」
「左翼系の人はそういう批判をしたがるかもしれない」
「アニメだと組合活動にも熱心だった宮崎高畑系とかね」
「ところがだ」
「なんだい?」
「実は、宮崎駿が作って高畑勲が音を付けた名探偵ホームズ劇場版だけどね。軍艦マーチが堂々と流れるのだ」
「なんと!」
「イギリス海軍が出てくるシーンで、ちんじゃら音付きだけどね」
「それってパチンコ屋」
「つまりだ。軍艦マーチを流すことにそれほど大きな問題はなかったのではないかと思われる」
「極端に左翼の反発を招くこともないわけ?」
「そうだ。だって、実際に再放送では軍艦マーチ版も使われているし、実際にうろ覚えだけど見たことある気がする」
「再放送する放送局にフィルムを渡すとき、特に区別していないということか」
「ということは、いったい何だったんだろう?」
「右翼と左翼の対立ではないだろうね」
「実はこの問題、陸海軍の対立が絡んでいると見ると、すっきり解釈できることに気付いた」
「というと?」
「軍艦マーチは、海軍の曲だから流したい派と流したくない派に分かれた可能性があり得る」
「それは考えすぎなんじゃないか?」
「いいや、傍証がある」
「なんだい?」
「父ちゃん発動機の音が」
「大和だ!」
「というシーンは実はおかしい。大和はずっと存在が秘匿されていて、誰でも知っている存在ではなかったのだ。一方で、陸軍の隼はマスコミで大人気」
「隼は知っていても大和を一介の漁師が知っているわけがない」
「知っていても子供に見るなという可能性もあり得る」
「ということは?」
「あのシーンは、戦時中からマスコミで持てはやされた陸軍機の感覚なのだ。戦後になってやっと存在が知られるようになった海軍の機密感覚ではない」
「つまり?」
「栄光の戦闘機が特攻機として使われて飛んでいく光景を見て、父ちゃんが息子に忘れないようにようく見ておけよ、という光景だと解釈するとすっきりしてくる」
「えっ!」
「他にもあるぞ」
「ええっ?」
「46センチ砲と思われる砲が火を噴くと敵機が吹っ飛ぶ描写。あれも違和感がある」
「というと?」
「対空用の弾頭は子弾頭をばらまく散弾なんだ。それを敵編隊に打ち込んで、確率的に多数を落とすんだ」
「三式弾とか、そんな感じかね?」
「直撃で敵機1機を落とすような兵器ではない。というか、そんな撃ち方はできないはずだ。素早く狙えないし、そもそも主砲を撃つときはブザーを鳴らして甲板からみんな待避しなければならない。本来は全ての対空兵器にカバーが付いているはずだったが、沖縄特攻時にはカバーのない対空兵器も多くなっていたから待避は必須だ」
「つまり?」
「あれは、もっと小さな砲の感覚なのだろう」
「37mm砲を背中に背負ってB29に打ち込むような感覚かね」
「飛行機としては破格の巨砲だろうけど、海軍の巨砲の感覚では無さそうだ」
「ふむふむ」
「更に思いついたぞ」
「なんだい?」
「松本ヤマトには基本的に高角砲が存在しない」
「そうだね。対空兵器は基本的に全部パルスレーザーで連射する機銃型だ。高角砲って呼ぶケースもあるが中身は機銃型だ」
「つまりさ。対空兵器に高角砲を積むというのは、海軍艦の発想なんだ」
「え?」
「でも巨人機が積む対空兵器は基本的に機銃なんだよ」
「ええっ!?」
「だから、松本ヤマトは大和として出てくるが、解釈はきっと富嶽なんだよ」
「つまり?」
「米本土を空襲して逆転してくれるはずだった富嶽が沖縄へ特攻しに飛んでいくのを見て、父ちゃんが息子に教えているシーンだと思えば、筋が通るかもしれない」
「そうだね、大和に接近するまで普通の船が見過ごされるわけがない。護衛艦に排除されるのがオチだ。でも、巨人機が上空を通過していく光景は見えてしまうかも知れない」
「航空基地周辺から民間人を排除できても、航路全体の下に民間人がいる可能性までは完全に排除できないからね」
オマケ §
「というわけで、ちょっと前に書いた原稿なんだけど」
「うん」
「こういう認識に沿った考察は更に進めてあって、まだ原稿が残っているのだ」
「お馬鹿な話がぽんぽん出てきても、それだけじゃないわけだね」
「実は、これはヤマトに関する違和感を上手く説明してくれる仮説ということで、思いついたこちらの方がびっくりだ」
「そうなの?」
「うん。そうなのだ」
「でも、本人が違うと言ったら?」
「これは深層を探るための仮説であって、表層を探る仮説ではないよ。本人がいくら表面的に何を言ったところで、作品に表出している表現はまた別物だ」
「凄い割り切りだね」
「あともう1つ言えば、陸海軍対立というのは根深いものであり、文化といっても良い。それは、表層とは別に、無意識的にも人間を縛るのだ」
「えっ。無意識的にも?」
「うん。それが環境的な文化というものだ」
「うーむ」
「だからさ。松本ヤマトを環境的な文化として受け入れてしまったこちらも、やはり松本ヤマトを否定できないわけだ」
「あれはあれで良いと言う訳ね」
「かといって、松本先生の望まない方向に進んだヤマトがダメというわけでもない」
「なるほど、屈折しているね」
「結局、いいヤマトを描いてくれる限り、全部オッケーなのだ」
「なるほど」
「あと、突然思い出したから書き足すけどさ」
「なに?」
「七色星団の決戦で、実はヤマトはほとんど活躍しない。最大の主役となるのは、実は空母艦載機というには大きすぎる重爆撃機とドリルミサイルだ」
「うん」
「実は、重爆撃機とは旧日本軍でいうと陸軍の呼称なんだ。海軍は陸上攻撃機」
「えっ?」
「しかも、空母に陸軍の爆撃機を載せるのはホーネット上のB-25という故事もあるしさ。つまり、ドメルの必殺技は陸軍機感覚なんだよ」
「うはっ! つまり、いかにも海軍的な空母赤城的な三段空母が3隻も出てきても、それらは全て前座ということか」
「しかも、ヤマトも活躍しない。活躍するのは、真田さんとアナライザーだ」
「なるほど」
「つまり、この話はあくまでドメルがヤマトを仕留め損なった話でしかない。ヤマトが活躍した話とは言い難い。そして、ヤマトが辛うじて勝てたのは真田さんのおかげであって、古代はドメルに思い通りに操られたに過ぎない」
「そうか。ドメル対真田か」
「ドメルはヤマトを徹底的に研究した筈だが、真田さんという秘密兵器に負けてしまったとも言える」
「真田さんも常識が通用しないスーパーマンだからな」
「ヤマトの最終兵器だよ」
「最終回でも伏線無しで空間磁力メッキのスイッチ入れるし」
「復活編の最後でも、真田さん本人がいないのに勝手に自作プログラムが立ち上がって最後の一撃を助けてくれる」
「こんなこともあろうか、と言わなくても態度で示せば、客も納得だ。伏線無用!」
「ははは。ヤマトが敵だと思ったのに、実はそんな相手と戦ってしまったドメルも悲運だね」