「ダイラガーの話をしよう」
「15合体だね」
「ちなみに、原作、八手三郎とは実在しないので、実際はシリーズ構成、藤川桂介先生の趣味が色濃く出ているのであろう、という意味で実はヤマトを間接的に見る試みだ」
「なぜシリーズ構成?」
「作品に趣味が出やすいのは監督とシリーズ構成だからだ」
「なるほど」
「さて、ダイラガーのネーミングだが」
「ラグビーする人がラガー。大きなラガーということだよね」
「いや、ちょっと待ってくれ」
「というと?」
「実はカモフラージュではないかという気がしてきた」
「え?」
「ダイラガー→タイラガー→平ら賀→平賀、とすると日本の軍艦の有名な設計者である平賀譲の名前に行ってしまうのだ」
「ええっ!?」
「更にいいかい。昔は分からなかったが今は分かる。ラガーチームのうち、漢字の姓を持っているものは以下の通り」
「それが何か?」
「旧国名ばかり並んでいて、かなりの割合が戦艦の名前なんだよ」
- 安芸 薩摩型 1907年進水
- 甲斐 (架空戦記にしばしば出てくる。八八艦隊の未成艦の名前として予定されていたという解釈があるかもしれない)
- 陸奥 長門型 1920年進水
- 加賀 加賀型 関東大震災で破損した天城の代艦として空母に改造 1921年進水
- 出雲 出雲型(装甲巡洋艦) 1898年進水
- 伊豆 不明
- 長門 長門型 1919年進水
- 伊勢 伊勢型戦艦 1917年進水
「というわけで、伊豆が良く分からないことと、出雲が装甲巡洋艦であること、甲斐が架空の名前(旧国名というルールには従っている)であることを除けば見事に戦艦ばかり」
「だけどこれはわかりにくいね」
「うん。結局、太平洋戦争に戦艦として参戦したのは伊勢、長門、陸奥の3艦だけで、しかもそれほど活躍しているとは言えない」
「陸奥は爆沈しちゃうし、長門は水爆実験に使われるし、伊勢は航空戦艦に改造されても積む航空機がないしね」
「辛うじて加賀が活躍しているが、空母としてだ」
「なるほど。加賀と聞いて空母を連想しているうちは分からないわけだね」
「ちなみに、伊豆は伊吹の誤記が一人歩きしてオフィシャル設定になってしまったと思うと筋が通る」
- 伊吹 鞍馬型巡洋戦艦 1907年進水
- 伊吹 改鈴谷型重巡洋艦改造空母 1943年進水
「ただ、他の艦がいずれも1890年代~軍縮条約以前ということからすると前者の方が有力だろうね。おそらく、ヴァンゲリオンの伊吹マヤは後者がネーミングの元だろうけど」
「そうか。むしろ宇宙軍艦の話としては、ヤマトよりもマニアックなんだね」
「そうだ。岩の中の宇宙船が長門みたいでかっこわるいから大和にしよう、とか言わないで、むしろ国産殊勲艦の数々を称えるようという意図が見えるようだ。いずれも主力艦の国産化に成功し、軍縮条約で頓挫するまでの間の軍艦の名前だ」
「そう思えばダイラガーが平賀のもじりという解釈も納得できるよ」
「本当かどうかは知らないがな」
オマケ §
「でも、結局はただのロボットアニメ」
「そうはいっても、宇宙に関係ない海のシーンから入るOPとか、手と花とちらりと翻るスカートしか見えないEDとか、けっこう大人指向で作られているかもしれないぞ」
「うーむ」
「あとラガーチームも宇宙人が平然と仲間として入っている等、国際色が豊かだ」
「そうか。全部日本人のヤマトとはそこが違うね」
「あとさ。OPの歌詞によると、ダイラガーは青春で愛なんだ」
「愛か」
「愛だよ」
「まさにヤマト的な世界だね」
「ちなみに、作詞は藤川桂介先生だ」
「おっと」
「だから、海派のヤマトを目指したがなりそこなったのがダイラガーという解釈もあり得るかもしれない」
「そうか。ヤマト的な群像劇を強引に合体ロボットに当てはめると数が多すぎて良く分からない15合体になるわけだね」
「でも、実際にどう合体するのかも分からない35身合体ゴッドネロスよりはマシだよ。まだしも合体したんだから」
「もうゴーショーグンには負けないぞ」
オマケ2 §
「スカイックパワー、天装! クウラガー合体せよ!」
「シーイックパワー、天装! カイラガー合体せよ!」
「ランディックパワー、天装! リックラガー合体せよ!」
「星を守るは天使の使命! ダイラガーXV参上!」
「こらこら、何を遊んでおる」
「いやー。リックラガーも強引なネーミングだと思ったけどさ。シーイックもずいぶん強引なネーミングだと思うよ」
「で、ヤマトと何の関係があるの?」
「関係はない! (きっぱり)」
「でもさ、宇宙零戦52型もかなり強引なネーミングだと思うよ。何せ試作機なのにいきなり52型だし」
「強引にヤマトネタにつなげたな」
オマケIII §
「ところで、ヴァンゲリオンの伊吹マヤとか言ってるけど、やはり本当は気になるの」
「いや。目に付くから名前を知ってるだけ」
「名前は軍艦ネタなんでしょ? ヴァンゲリオンは見ようとは思わないの?」
「思わない。なぜなら、一見マニアックな軍艦ネタを名前に並べているようで、実はマニアックじゃないからだ」
「というと?」
「たとえば、惣流・アスカ・ラングレーという主要登場人物がいる。それぐらいは私も知っているからな」
「うん」
「で、ここでラングレーは世界初の航空母艦の名前だと言えば、マニアックに思える」
「そうじゃないの?」
「確かにラングレーは世界初の航空母艦ということらしいが、実は空母として最初から建造された世界初は日本の鳳翔なんだ」
「どういう意味?」
「ラングレーは改造なんだよ」
「そうか、純血の空母ではないから評価が落ちる訳か」
「そうじゃない」
「というと?」
「元は、給炭艦なんだよ。石炭を補給するという古典的な船でしかないんだ」
「あまり格好良くないじゃん」
「そう。そこだ」
「えっ?」
「一国の看板を背負う主力艦ではなく、あくまで裏方なんだよ。空母に改造されてもかなり実験的な色彩が強い。そういう船の名前を、主要キャラに付けるというのは、マニアックなようであまりマニアックじゃないな、という気がするのだ」
「ええ!?」
「だからさ。もともと軍艦が好きでそれなりのバックグラウンドの知識があったらやらないだろう、というネーミングだと思う」
「そうなの?」
「たとえばさ。さる架空戦記に八八艦隊が建造された未来の編成表というのが乗っていたが、そこに条約型巡洋艦の名前が並んでいて興ざめしたことがある」
「なぜ?」
「条約型巡洋艦ってのは、軍縮条約で八八艦隊が作れなくなったから、その穴を少しでも埋めようとして建造したいわば戦艦の代用品だ。八八艦隊が作れるなら、そんな代用品は要らないし、八八艦隊を作ったらそもそもそれだけの予算が残らないだろう。八八艦隊は運用の予算も膨大だから、八八艦隊16隻以外の主力艦も解体か海防艦扱いに格下げするしかあるまい。それ以外の主力艦は残りようがない」
「もったいないね」
「いいや。日本海大海戦の立役者である東郷平八郎によると、統一的に指揮できるのは8隻+8隻の16隻までだから、それ以上はあっても意味がないという考え方なんだ」
「別の艦隊に分割して運用したら足りないのでは?」
「だから、日本近海の決戦1回でケリを付ける思想なんだよ。でも、日本は金がない以上、仕方がない。あちこちの遠隔地で激闘を繰り返すような戦いはとても予算的に無理」
「それで?」
「だからさ。そういう連想は、ある程度の軍艦好きならすぐ到達するだろう」
「ラングレーも同じってことだね」
「ちなみに、綾波というのは駆逐艦の名前。日向というのは戦艦の名前。でも、メインヒロインが綾波で、どうでもいい脇役が日向ってどういうこと?」
「さあ」
「っていうか、名前をチェックするのにWikiPedia見たら日向マコトって名前が載ってたけど、誰だっけ?」
「さあ」
「逆に、分かってるなと思うのは、昔さるコミックにあった霧島榛名と鳥海摩耶という登場人物だな。ちゃんと人名風に読めると同時に同型艦の名前がペアになっている。よく工夫されている。まあ、フィンランドのフォッカーD21とか出てくる漫画だからマニアックで当然なんだが」
「そうか。そこに、にわかマニアと、本当のマニアの境界線があるわけだね」
「より正確に言えば、これは実はミリタリーの問題ではなく歴史の問題なんだ。簡単な要約だけ読むと見えてくる光景と、物事の連鎖として状況を見ると見えてくる光景は同じではない」
「情報量の問題?」
「いや、これはコンテキスト(文脈)の問題だ」
「えーっ?」
「だから、しばしば誤解されるのは、君そんなことも分からないの?って批判は単なる情報量の問題ではないことも多い」
「じゃあコンテキストの問題?」
「コンテキストを把握するための基礎が足りないという批判だろうね」
「それじゃやはりこれも、背伸びしすぎという問題?」
「ちょっと背伸びパンツのゴムが切れた状態なんだろう、たぶん」