「ダイラガーの話を書いてはたと気づいた」
「というと?」
「この世界には、おそらく軍艦の名前をたくさん使う者達には2派ある」
「それが丸組とヤマト組?」
「昔さ。無責任艦長タイラーの後書きで、原点はヤマトでしょと言われるが実際は丸なんだという話が書いてあった」
「うん」
「そういう話による分類だよ」
「というと? 何が違うの?」
「コンテキスト(文脈)だ」
「え?」
「いいかい、ヤマトを契機に軍艦に興味を持った者は、基本的に史実に触れた時点で終わる。それが画期的な大成果だからだ」
「うん」
「でも、丸を契機に軍艦に興味を持った者は、史実はスタートラインであってゴールではない」
「そうか。その軍艦が生まれた背景に興味が行くわけだね」
「うん。たとえば、太平洋戦争に参加した日本の重巡洋艦は18隻あるけれど、実は全てが本当に重巡洋艦として建造されていないということに気づくわけだ」
「というと?」
「古鷹型と青葉型の計4隻は実際には軍縮条約以前に建造されていて、条約の条件から重巡洋艦に分類されてしまったけれど、建造当初の意図としてはむしろ大型の軽巡に近い。でかい砲を積んでいたので、重巡洋艦に分類されてしまっただけ」
「なるほど」
「最上型や利根型は艦名が川の名前であることから、もともと軽巡としての計画だと分かる」
「そうか。命名規則では軽巡が川の名前で重巡が山の名前だね」
「巡洋戦艦もな。それはともかく、更に突っ込んでいくとこれは意識的に行われたカモフラージュだということが分かる」
「最初から主砲を交換して重巡にする気だった、というわけだね」
「うん。だから、最上型は主砲の換装を経験して重巡になったが、利根型は軍縮条約に制約されなくなったから最初から重巡として竣工しているが、名前は川のままだ」
「それで?」
「さらに言えば、おそらく活躍の解釈も変わってくる」
「というと?」
「ヤマト組は真珠湾の大戦果に喝采するかもしれないが、丸組は違う可能性がある」
「え? 奇襲成功で大戦果じゃないの?」
「だからさ。日本海軍の戦略は、近海で待ち構えて決戦をすることなんだ。そのために訓練を繰り返して、機材を整備したのが日本海軍だ。そういう準備の蓄積を全てご破算にしたのが真珠湾攻撃だ」
「なにそれ? 日本の大勝利なのに、悪いことだったというの?」
「だからさ。真珠湾攻撃で戦艦による決戦があり得なくなっちゃったのだから、日本海軍は戦艦をどこで使っていいのか分からなくなって、せっかく大和を作っても大和ホテルと揶揄されるぐらい何もしないで後方で待機しちゃったわけだ」
「えーっ」
「だからさ。ここで考えてみてよ」
「というと?」
「ヤマト組と丸組の違いだよ」
「どういうこと?」
「いいかい。ヤマト組は史実が前提だから、沈んだ大和の無念からスタートするわけだ」
「うん」
「でも、丸組はレイテや菊水作戦でまがりなりにも戦いの場を持てた大和よりも、実際は大した活躍の場を持てなかったもっと古い艦艇に嗜好が向かうわけだ」
「そうか。なるほど。陸奥とか戦闘に出ない割に柱島で爆沈。そっちのほうが無念だってことか」
「長門は一応レイテに出ているが、最期は大和のように膨大な敵機を前に沈んだという見せ場もなく、水爆実験だ」
「そっちの方がもっと無念ってことだね」
「うん。長い間連合艦隊旗艦として国民に知られ、何回も改造され、いざ決戦になれば連合艦隊旗艦として先頭に立つことが期待された戦艦なのに、最期は戦闘ですらない」
「それは無念だねえ」
「だからヤマト組と丸組ではい無念の意味が違うんだ」
「じゃあ、どこに境界線があるのだろう?」
「分類してみよう」
ヤマト組 §
- エヴァンゲリオン (名前に軍艦の名前が多いが、ルールも一貫性も乏しい)
- 無責任艦長タイラー (TVアニメ)
丸組 §
- ダイラガーXV
- ヤマト
- 無責任艦長タイラー (小説)
- トリップ・トラップ・トルーパー
- おいら
「ちょっと待て。質問がいくつもあるぞ」
「うん」
「トリップ・トラップ・トルーパーってなに?」
「前に書いた霧島榛名と鳥海摩耶が出てくるコミック。18禁だけどね。巻末には、なんとソードフィッシュでビスマルクに魚雷を当てる漫画が載っていたが、これは18禁ではなかった」
「ま、マニアックな……」
「でも、いちばん好きなのはフィンランドのフォッカーD21らしい。おそらく北欧空戦史を読んでいる。おいらも読んでたけどな」
「それから、無責任艦長タイラーが2つあるんだけど?」
「うん。これはアニメと小説で別物だったから」
「それから、ヤマトがヤマト組ではないって、どういうこと?」
「だってさ。ヤマトは始祖なんだぜ。始祖を作ってるときに、始祖はまだ生まれてないことになる」
「おっと」
「ただし、ヤマトは丸組でも陸軍系という可能性があり、ちょっと違う可能性もある」
「最後に、おいらって何?」
「もちろん、おいら」
「ヤマトファンじゃなかったの?」
「ヤマトファンだけど、ヤマト組ではないのだよ。分かるかね?」
「なんかこんがらがってきたよ」
「だからさ。丸の別冊の写真集が家にごろごろあって、丸本誌は本家のおじさんが買っていてたまに見ていた、という子どもなんだよ」
「おっと」
「だからさ。平賀譲なんて名前はよく見る名前なんだよね。オレがもっと小さく5500トンと同じ武装の軍艦つくっちゃる!と叫んで夕張とか。いや、そんなくだけた言い方ではないけど」
「そうか」
「だから、タイラーにヒラガーという名前のキャラがいてもすぐ分かるし、ダイラガーももしかしてヒラガのもじり?という解釈が出てくる」
「ヤマトだと画期的兵器の設計者は真田さんだね」
「あれはあれで、戦国武将系の知恵者の名前をもらっているからそれで筋が通っている。別にヒラガさん居ないならダメというわけではない」
オマケIII §
「おい。オマケ2が無いぞ?」
「いいんだ。ヤマトIIIの話をするから」
「どういうこと?」
「実は丸組として解釈するとオマケIIIに出てくるアリゾナ、プリンス・オブ・ウェールズ、ビスマルク、ノーヴィックの解釈が変わってくる」
「というと?」
「一見、日本に沈められた船ばかり、と思うとあまりに調子が良すぎると見える。しかし、ビスマルクが例外になる」
「それで?」
「実は誰が沈めたのかという話を除外して、単に沈められた無念という点でくくると4隻が全てまとまる。いや、ヤマトすらまとめられる」
「そうか。アリゾナは不意打ち。プリンス・オブ・ウェールズは随伴してくるはずの空母が故障で足止め。ビスマルクも僚艦が故障で出られなかった上に舵をやられて運が悪い。そしてノーヴィックも得意の高速性で逃げ切れず、無念」
「なるほど」
「そういう考え方ができるとすれば、やはりヤマトは丸組だろう」