「戦争の話をしてくれよ」
「いきなりなんだい」
「もっとずばっと本音に切り込んだ戦争の話を聞きたいな」
「そうか。じゃあ言おう。おいらは正義の戦争よりも不正義の平和の方がいい」
「でも、もしも戦争が不可避だとすると?」
「その場合でも戦争当事国にはならない方がいい。代理戦争させて、戦争当事国を相手に金儲けする方が儲かる」
「勝ったら賠償金が取れるのではないの?」
「まあ、今はもう無理だろうな。疲弊した相手国を復興するために逆に金が出て行くぐらいだろう」
「それは儲からないね」
「だから戦争はするだけ無駄だ」
「戦争で儲ける秘訣は、戦争当事国になるなってことだね」
「そうだ。どんな国から挑発されても、それに乗ってあげる必要はまるで無い。あるのか無いのかも分からない国家の体面など犬に食わせろ」
「分かった。じゃあ、話を変えよう。戦争が既に起こったとしよう。戦争当事国の国民であることが前提としての話だ」
「その場合、最小のコストで勝利することが重要になる」
「コスト?」
「そうだ。どうせ戦費は無駄金として消えるのだから、少ない方がいい。少ない出費で、敵には多くの出費を強いるのが勝つための王道だ」
「具体的にはどういうこと?」
「艦隊決戦を挑んで正々堂々と戦うよりも、潜水艦で輸送船を沈める方がいい。少ない出費で莫大な損害を相手国に与えることができる」
「核爆弾でみんな殺した方が早いのじゃないかい?」
「そこが間違いだ」
「ええっ?」
「勝ちたかったら殺しちゃダメだ」
「なぜ?」
「負傷者は治療しなければならない。見捨てられないからね。ということは、負傷者が増えれば増えるほど相手の出費が増えるのだ。手間も割かれる」
「そうか」
「出費が過大になると戦争継続が不可能になる」
「不可能になったら参ったというしかないわけだね」
「そこがポイントだ。戦争は武器を持って戦うことだけが戦争じゃない」
「基盤となる経済活動を妨害してしまえば、それだけで戦争は不可能になるってことだね」
「だから太平洋戦争は、そういう合理性に徹しきることができなかった日本が、徹し切れたアメリカに負けた戦いとも言える」
「武士の情けで輸送船を見逃す日本と、沈めちゃうアメリカの差だね」
「輸送船を見逃せばそれが同胞を殺しに来る一助になるという発想は無かったようだ」
そしてガミラス §
「そのように考えると、実はガミラスの地球侵攻が合理的であることが分かる」
「というと?」
「もし地球人を皆殺しにするなら、おそらくあっという間に可能だろう」
「でも実際は何年もかけてじわじわと苦しめてきているよ」
「だからさ。実は遊星爆弾というのは、地球人を地下都市に追い込む効能があるんだよ。地下都市での居住はいろいろな意味で高コストになるから、地球が持つ戦争継続能力を素早く奪うことにもつながる」
「ってことは?」
「ガミラスが持つ消極性は、実は重要な意味を持つ。沖田艦隊は冥王星まで行けてしまうし、太陽系内はパトロール部隊がうろうろしている程度だ。遊星爆弾も地下に直接打撃を与えられない。でも、それは戦争の継続能力を早期に奪って、自分から参ったと言わせる戦略なら当然なんだ」
「そうか、人類の絶滅か奴隷かを要求しているというのは、実際には絶滅を回避するために奴隷になります、という時期を早めて追い込んできているわけか」
「うん。だから、単に絶滅させたいだけなら、こんな手の込んだことはしないわけだ」
オマケ §
「というわけでこの先は没だ」
「なぜ没にしたの?」
「ちょっと内容が生臭い」
「そんなに?」
「ああ、もともと戦争は生臭いからな」
「でも、戦争は好きなんだろう?」
「いやいや。好きなのは正義の戦争より不正義の平和だって」