「一応、辞書を作る映画だと言うし、見たいと思った」
「それで?」
「下高井戸シネマでやるというので、見てきた」
「結果は?」
「微妙。わざわざ無い時間を割いて見るほどでも無かった」
「えー」
感想 §
「なぜ微妙なの?」
「出版の末端ぐらいには位置するライターとして映画の内容に意外性が無い」
「なるほど。君が見る映画では無いって事だね」
「と思ったのだが、問題はもっと深刻かも知れない」
「なんで?」
「実はこの映画、本当に難しい問題を全部避けて通っている」
「えー」
「たとえば最後のハードルは見出し語の抜けのチェック。でも、これは単なるマンパワーの問題。下手をすればマシンパワーの問題。本当の意味でやばい問題ではない」
「マシンパワーの問題って……」
「電子データになっているなら、単純に見出し語の比較だけで終わってしまう」
「そんなあ。それじゃ盛り上がらないよ」
「説明文の問題も、循環参照だけ。本当に脂っこいやばい問題には全く触れていない」
「循環参照も脂っこくないの?」
「脂っこいけど、それほど致命的というほどでもない」
「もっと分かりやすい感想は無いの?」
「分かりやすいというと?」
「素人にも良く分かる感想だよ」
「分かった」
「じゃあ言ってくれ」
「話が何もかもとんとん拍子で上手く行きすぎる」
「だって、同僚は配置転換だし、年配のおじさんは死んじゃうじゃないか」
「配置転換とか年配男性の死は現実にありふれていて、それはドラマのうちに入らないよ」
「えー。せめて良かったことを1つぐらいは言ってくれよ」
「除夜の鐘を聞きながら仕事をしているところは良かったな。くどくど説明せずに、今はいつであり、どのような状況か描いている」
「休んでいて当たり前の時間まで仕事に没頭しているわけだね」
「あと、オフィスの様子が20世紀の時と21世紀の時でちゃんと雰囲気が変わっている。20世紀の時は98っぽいパソコンが置いてあるけど。21世紀のときは今どきっぽいパソコンだったりするし」