「なぜ、このような流行り物を見たの?」
「流行りすぎて見ないわけには行かないので。それにディズニーの映画を見るのは初めてではないし」
「それで内容についてはどう思った?」
「うん。とても良く出来ていて面白い映画だ。しかし、これだけ多数の観客がこの映画を理解したのかと言えば、そこは疑問だ。実際に見たけど分からなかった、面白くなかったという意見も多い」
「分からない、面白くないという感想は妥当だと思う?」
「うん、妥当だと思う。なぜならこの映画は一ひねりしてあるからだ。そして、一ひねりしただけで追従できなくなって分からなくなってしまう人は珍しくない。そもそも、わずかであっても一ひねりに対応出来ないことはオタクの典型的な症例であり、よくあることだ」
「では、どこにひねりがあるわけ?」
「この映画、ストーリーの大半はアナについての物語であり、アナの恋愛に関する話として進行する。ところが、最初に提示されるテーマはエルサに関するものであり、そのあと要所要所でエルサの苦悩と解放が描かれるのだ。そして結末はエルサのアナに関する愛がもたらす。アナの恋愛要素は実際にはフェイクであり、機能していない」
「えー」
「そもそもアナの行動は無計画かつ単調で、実際には主人公として機能していない。だからアナを主人公として見ていると映画としてもの足りない。当然つまらない。アナはフェイクの主人公だからだ」
「フェイクの主人公かよ」
「問題は、相手や周囲を大切に思うために惨劇を拡大していくエルサの苦悩の部分にある。エルサは城を出て解放されるのだが、それは誤った解放であった。一人になることは人として正しくなく、それは表面的な解放でしかない。本当の解放ではない。だからやはり惨劇を引き起こす。最終的に最初に提示された屈折を解放することで真実の愛によって問題を解決する。つまり、最初に提示された主題を回収して終わる。映画として非常に正しい。問題は、別に主題があるかのような話が延々と続いていることだけだ」
「でもそれはフェイクなんだね?」
「そうさ。最初に提示されていない以上、それは最初から最後までフェイクなのだ」
「それが面白いわけだね?」
「そうだ。徹底的にフェイクの展開が続くわけで、非常に面白い構成だ」
その他 §
「この2つは面白いね。矛盾している」
「矛盾していると面白いのか」
「そうだ。この矛盾が実はテーマ性そのものを間接的に示している。実は氷の魔法の能力を解消する必要は無いのだ。ただ、真実の愛を持てば良い。氷の魔法は単なる手段になる」
「つまり、暖かい愛と冷たい氷の魔法が共存するわけだね?」
「そうだ。矛盾しているが両者は共存できる。共存できないと思い込むことが間違いであったわけだ。この作品は矛盾が当たり前のように存在している世界なのだ」
