「少し、埃をかぶって出てきた。おそらく、PC-9801-38L マルチフォントROMボード」
「何をするものだい?」
「日本語ベクタフォントをROMで提供するもの」
「どうすれば使えるんだい?」
「NECの98版Windows 3.0にドライバが入っていたはずだ」
「でもさ。Windows 3.0の時代にROMで提供されるフォントって、ぜんぜん印象にないんだけど?」
「そりゃそうだ。他者は全部ソフトで提供した。中にはレンダリングエンジンだけハードで提供したところもあったがね。でもフォントはソフトで提供が普通だった。ハードで提供されたのはおそらくこの一例のみ」
「なんでそうなったの?」
「当時のPCの性能向上は著しいものがあった。486/33MHzぐらいのマシンが普通に買えたんだ。それだけのパワーとそれ相応の容量があれば、フォントを扱うのに専用ハードは要らない」
「なのに、なんでこのボードはあるわけ?」
「NECのPC-9801シリーズはね。この当時最新機種でも486/16MHzで非力すぎたのだ。いつもはメーカーの太鼓持ちしかしない大学の先生ですら【非力です】と言ったぐらいの惨状だった。当然、こういうボードも危機感の無さの表れで、あまり好意的には受け入れられていなかった」
「つまりなに?」
「おそらく、超レアもの。持ってる人は凄く少ないよ」
「珍品中の珍品ってことだね」
「でも、オークションに出すか。はたして売れるかな」
「君が所有している意味は無いと……」