「実際に通して聞いているところだが、もう感涙の嵐だ。ピアノが叫ぶ、バイオリンが悲鳴を上げる、ギターがうなる、オーケストラが嵐を起こす」
「そんなに?」
「このCDは最初に買った完結編のCDで、おそらくいちばん多く聞いている。思い出のCDだ」
「思い出補正が入っているってことだね」
「そう。思い出がバリバリ浮かぶから泣ける。そういうものだよ。中味も凄くいいけど」
「完結編の美しい思い出だね」
「まあ、完結編の映画そのものは物語作りが雑すぎて凄くしょうもないのだがね」
「ぎゃふん」
「あれこそ、プロがきちんと仕事をしていない成果物だろう。……より厳密に言えば、素人と外野がいじりすぎて迷走した感じではないかな。上に立つ大将が物語というものに無自覚でありすぎた」
「たとえば?」
「アクエリアスの女王が【ここに敵はいません】と言った直後に敵を発見しちゃうとかね。女を捨てて新天地に移住するとかね。特に理由も無くハイパー放射ミサイル対策が完成しちゃうとか。あまりにも構成が雑」
「なるほど」
「さすがに、このあとに作られるヤマト作品はもうちょっと改善をしようという機運が見られて割と良い成果を出したと思う。復活篇ぐらいになると、【これはこれでオッケー】という水準にまで行く」
「で、何が問題なんだい?」
「ヤマト2199以降になって、物語作りの品質が完結編以下にガクッと落ちたのはビックリした」
「ぎゃふん」
「ごめんよ完結編。君は最低でも最悪でもなかった。下を見たら切りがないんだ。少なくとも完結編は古代が辞表を出すところまでは悪くはなかった」
「そういう結論かい?」
「そうじゃない」
「じゃあ何だよ」
「この徳間版の2枚組ヤマト完結編のCDを聞いておいらが感じたもの。それを伝わりうる可能性はおそらくかなり低い。宇宙戦艦ヤマトというキーワードはヤマト2199と2202によって、かなり社会的に上書きされてしまったからだ」
「えー」
「当時、このCDを聞いた感覚を語り合う他者がいるとは思いも寄らないで一人でCDを聞いていた。その当時の感覚は、今おそらく再び蘇っている。今ヤマトを語る者達がいくら2202に熱狂していようとも、それはこの感覚を語り合える他者ではない」
「昔も孤独。今も孤独なんだね」
「まあ、1974年当時のヤマトの話ができる友達はクラスに2~3人ぐらいしかいなかったけどな」
「常に孤独なんだね」
「2~3人もいたら孤独じゃないけどな。小グループが孤立はしていた」
「で、君はどうするんだ?」
「ヤマト関係のイベント等には一切顔を出さないよ。オフィシャル主催でもファン主催でも関係ない」
「1%ぐらいは君の好みの話が出るかも知れないよ」
「そのために99%の苦痛は耐えられん。それに……」
「それに?」
「どう考えても面倒なことに巻き込まれるだけだ」
「面倒なこと?」
「どう考えてもファンが集まれば、宗教的2202支持者と宗教的アンチ2202の対立の火種がどこにでも転がっている。僅かなショックで導火線に火が付く。そんなものに巻き込まれたくはないさ」
「ヤマト2202の問題は、いわゆる【副】問題じゃないの?」
「残念ながら副監督がどうのという問題ではないよ。忠実なヤマト2202ファンがアンチをオフィシャルの代理気取りで人格攻撃したり、既にファン対ファンの世界に火種がいっぱい落ちている。だからファンの世界もどこに地雷があるのか全く分からない。そんなところに足を踏み入れるのは恐いからやだ」