「スケールが大きい」
「面白かった?」
「ああ。凄いなこれは」
「どこが良かった?」
「夏凛の精神が完全に折れるところまで描いた凄みはある。それと、恒星間移動ガジェットのスケール感も凄いな」
「なるほど。で、注目ポイントは?」
「JACOBS LADDER」
「は? UQ Eatsじゃなくて?」
「UQ EatsはUber Eatsのもじりだ。UQもUberもUで始まっているから言葉遊びとしては優秀だ」
「じゃあJACOBS LADDERって何?」
「刀太の服の胸に書いてあった文字。すぐに服は消えて無くなったがね」
「結局なんのこと?」
「天使の梯子(ジェイコブズラダー)のことだ」
「プロジェクト名だね」
「でもね、この話だけで一杯話ができるよ」
「えー」
「そもそも、ジェイコブズラダー(Jacob's Ladder)というタイトルで映画が2本存在する」
「ふむふむ」
「だから、JACOBS LADDERをジェイコブズラダーと称することは奇異ではない。たぶん英語読みだね」
「ってことは別の読みがある」
「実は、一般的には【ヤコブの梯子】と訳される。旧約聖書の天使が上り下りする梯子のことらしい」
「つまり、【天使の梯子】でオッケーということだね」
「そうなんだけど、実はヤコブは人名であって、天使ではないんだよ」
「誰だよヤコブって」
「旧約聖書の登場人物で別名イスラエル。ユダヤ人の始祖の一人だ」
「なぜヤコブが天使の梯子と関係あるんだ?」
「ヤコブが夢で見たらしいぞ、天使が上り下りする梯子を」
「ほんとかよ」
旧約聖書 創世記より
さてヤコブはベエルシバを立って、ハランへ向かったが、一つの所に着いた時、日が暮れたので、そこに一夜を過ごし、その所の石を取ってまくらとし、そこに伏して寝た。 時に彼は夢をみた。一つのはしごが地の上に立っていて、その頂は天に達し、神の使たちがそれを上り下りしているのを見た。
「ヤコブ、天使、梯子が確かに出てくるね」
「そうだ。こういうバックグラウンドをしっかり把握しておくと良いぞ、UQ読みとしては」
「なんでだよ。洒落たネーミングってだけじゃないのかよ」
「違う。このエピソードは完全にキリスト教の宗教観がバックグラウンドにあるんだ」
「どういうことだよ」
「夏凛はキリストの弟子のユダだ。だから、死に際して【あの方のように】と言っているあの方はイエス・キリストのことと考えるのが自然だ。キリストも死んだからね。キリストの死を自らの死になぞらえたと考えられる。そして夏凛が言う【主】とはキリスト教の神そのものだ。とすれば、そんな夏凛を助け出す梯子はJACOBS LADDERしかない。しかし、これはヤコブの梯子であってはならないのだ。
「どうして?」
「ヤコブはユダヤ人の聖人であって、UQ Holderはユダヤ人に対する特権性を認めている集団ではないからね。あくまでヤコブが夢に見た【天使の梯子】でなければならない」
「だから、読みが【ジェイコブズラダー】であっても、漢字は【天使の梯子】であるべきなんだね」
「そう。そうなんだけど、完全にキリスト教がバックグラウンドにあることも間違いはない。だからヤコブの存在感はある」
「じゃあ最後に一言」
「キリスト教までお勉強できるUQ Holder最高! 久々に旧約聖書を真剣に調べちゃったぜ! まあ日本語訳でしかないがな」
「えー」
「あと、映画のジェイコブズラダーも面白そうだからそのうちに見よう」