正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
ザクの開発成功直後から、ザクの後継機はどうあるべきかという話題はあちこちで盛り上がっていました。更に、1年戦争の開戦後に、ザクが様々な限界に直面するようになると、真剣な技術的なテーマとして議論されることも多くなりました。
そこで最も熱く議論になるのは、人型は宇宙兵器として最適かという論点でした。人型派は、空気のない宇宙では形は性能に直結せず、それよりも人間が直感的に扱える形状であることが重要だと主張しました。それに対して、非人型派は、人の形は地球上で様々な活動を行うために進化して完成された形であり、それがそのまま宇宙で最善とは限らないというものでした。
どちらが優勢かと言えば、非人型派の方が、大きな説得力を持っているかのように見えました。
そのような状況を背景にして、ジオン軍でも予算を付けて非人型の機動兵器の研究開発を開始しました。
研究の最初のステップは、非人型でかつザクとほぼ同等の性能を持つ兵器の実現でした。研究者は、ザクを超えるのは容易だと信じていましたが、何せ初めての試みばかりなので、最初から目標を高く掲げすぎないようにしたのでした。
既存の兵器から利用できる部分をそのまま転用することで、誰も予測しなかった素早さで、試作機は完成しました。
それは、くさび形の機体にザクの腕が2本付いているという、既存の兵器とはまるで似ていない大胆なデザインでした。サイズはザクの3分の2程度で、重量は半分以下。量産時の想定生産コストはザクの半分。艦艇に搭載する場合はザクの3割り増しの機数を搭載可能になりました。
それでいて、ザクとの模擬戦では、ザクと同等どころか、ザクに対して優勢ですらありました。何しろ軽いので、軽快なザクよりも身軽に機動できたのです。しかも、操作すべき可動部分が少ないためパイロットの疲労も少なく、整備も容易であり、故障もしにくいというオマケまで付いていました。また、操作が単純であることから、新米パイロットが習熟する期間もザクより短いことが分かりました。
結局のところ、安定したAMBAC機動には腕が2本あれば十分であり、逆に複雑な手足の本数が少なくなれば、様々な面でメリットがあるという結論になったのでした。
しかし、画期的な性能の割に、エースパイロットの評判は今ひとつでした。彼らは、経験的に腕を上げてきた者達であり、彼らの持つ技能の多くは人型兵器でのみ実践可能であったのです。
ベテランパイロット達の声に押され、また、当面ザクがあれば戦争遂行に問題ないということもあり、モビルアーマー構想の不要論も飛び出しました。しかし、多くのメリットを持つモビルアーマー構想をここで終わらせてしまうことにも、ジオン軍は踏み切れませんでした。
当面は、モビルスーツを補助する兵器として研究と開発を続行、というのがジオン軍の下した結論でした。
そこで当面の目標とされたのが、火力支援用の重機動兵器でした。しかし、手足の本数を減らして軽く小さく作れることがメリットであるモビルアーマーなのに、大きく重い兵器を作れというのは、ある意味で矛盾した要求と言えます。その結果、モビルアーマー構想は迷走を始めます。
幾多の試行錯誤を経て、軍よりの要求を忠実に体現した機体が完成しました。MA-05ビグロと名付けられたその機体は、大成功した研究機の伝統を引き継ぎ、くさび形の機体に2本の腕を備えていました。しかし似ているのはそれだけでした。まず全長は3倍もあり、ジオン軍の主力巡洋艦ムサイの格納庫には収まりませんでした。つまり、ジオン軍が展開する主要な作戦にビグロを投入することは不可能であったのです。腕はザクサイズの兵器を運用するにはサイズが全く合わず、指代わりに接近戦時に使用するクローが取り付けられていました。火力支援兵器なのだから、接近専用の装備など無駄になるだけというのが常識的な考えですが、実戦用の機動兵器は接近専用の装備を持たねばならないというジオン軍内の規約があるため、装備せざるを得なかったものです。
さて、ビグロ(Big-Ro)の名前は、Big Rowdy(大きな乱暴者)を縮めたものでしたが、その名前にたがわず、サイズは大きく、しかも暴れん坊の機体でした。続きます。
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