正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
ジオンは連邦と比較して圧倒的に国力が劣るため、単純な兵器の数で負けることは当たり前といえます。しかし、その少ない兵器を運用するための兵士が、それに輪を掛けて不足状態であったことはあまり知られていません。特にパイロットの人材層の薄さは致命的な問題であったと言えます。モビルスーツパイロットは、一般的に一人前となるまで2年掛かると言われています。ですから、足りなくなったからと言って、すぐに増員することはできないのです。
連邦軍においては、平時から基礎訓練を終えた兵士を予備役に編入するという制度を運用し、有事には彼らを軍に即時編入できるようになっていました。それだけでなく、戦時速成教育によるパイロット養成のカリキュラムも平時から作成し、戦争が始まった場合はどういう手順で志願者を募り、どのような基準で選抜し、何をどの程度の期間教育してから実戦部隊に配属するかまで、詳細は計画が立てられていました。
実際、1年戦争時には、開戦の翌日には予備役への招集が掛かり、3日後にはパイロット志願者の受付が始まっています。
これに対して、ジオン軍では戦時にパイロットを急速に増員する計画は何もなく、平時となんら変わることのない軍のパイロット養成課程卒業者だけをパイロットとするだけでした。その結果、ルウム戦役後には早くもパイロット不足が各方面から意識されるようになります。しかし、多くのパイロットが急速に実戦経験を積み増して力を付けつつあったため、深刻な問題とはなっていませんでした。
そのためか、ジオン軍がパイロットの戦時速成教育に手を付けるのは開戦の半年後という悠長なスケジュールでした。3ヶ月の短期教育を受けたパイロットが実戦に出ることには、既に戦争は終盤であり、完全にタイミングを逸したと言えます。
また、短期教育を受けたパイロットをどう使うかという点で、連邦には様々な研究や実践が残されています。連邦では、短期育成パイロットは常に実戦経験のある指揮官と一緒に行動するものと決められており、戦闘も編隊戦闘が基本とされていました。
一方、ジオン軍では、建前上は編隊戦闘が基本とされながら、実際には各パイロットの個人技で戦う単機戦闘が主に行われていました。その結果、実戦経験者が新米を率いて戦うことはなく、新米も単機戦闘を強いられました。それが、ただでさえ貴重な機体とパイロットの消耗を加速したことは間違いないことでしょう。
このことから考えれば、1年戦争末期、急速にジオン軍の戦線が崩壊していったのは当然のことと言えるでしょう。ベテランパイロットが戦線を支えられるだけの数を割り込んだとき、それにとって変わるものはジオンには存在しなかったのです。
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